11/25/2007

AR Navigator 2007 No.28 佐野先生のミニ・ゼミナール(3) 生徒の意識を測る

佐野先生のミニ・ゼミナール(3)                松山大学  佐野正之

 皆さん、お元気ですか。年末が近づくにつれ、いよいよ、皆さんも授業やらアクション・リサーチの成果を整理することに追われ、文字どうりの「師走」の毎日かと思います。今回は、次のような質問が寄せられています。

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質問:データをとるなかで、生徒の意識の変化が測りにくいことが課題になっています。
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佐野先生:これも答えにくい質問です。「生徒の意識」というのは、何に対する意識なのでしょうか?評価でいう「積極的なコミュニケーションの態度」なのでしょうか?だとすれば、文部科学省の「評価規準」にあるように、「積極的に言語活動をしているか」という視点と、「実際のコミュニケーションの場面で、なんとかコミュニケーションを続けようとしているか」という視点から、生徒一人一人について評価していくことになります。たとえば、英語を話すことに関する意識であれば、文型練習と重ねて意味のある言語活動をさせ、活動への取り組みの姿勢が「十分に満足がゆく(A)」、「満足である(B)」,「努力が必要(C)」に分類して行きます。また、実際のコミュニケーションの場面であれば、ALTとのインタビューで会話を継続しようとしているか否かで評価してゆきます。いずれにしても、適切な活動に取り組ませ、そこでの態度を評価してゆくことになると思います。

 しかし、この質問では「態度」という言葉を使わず、「意識の変化」を使っているところをみると、「英語学習の必要性の認識」ということなのでしょうか。生徒が英語学習をどの程度必要だと考えているか、その程度の変化を見たいということでしょうか?もっと狭い意味で、「文法の重要性の認識」という意味なのでしょうか。具体的にこの場合の「意識」は何を指すのかは不明ですが、「佐野先生のミニ・ゼミナール(1)
」で数量的なデータの扱いには触れているので、ここでは「数量化できない、生徒の内面の変化を知る方法としてはどのような方法があるか」と解釈して、たとえ話から解説を始めることにします。

 もし、あなたが、恋人の自分に対する「内面の変化」を知りたいとすれば、どうするでしょうか。多分、「私を今でも愛している?」と直接聞くことはせずに、一緒にいるときの様子や言葉を注意深く観察し、それを蓄積して判断材料にするでしょう。あるいは、こちらから働きかけ、たとえば、手料理をご馳走したり、マフラーを編んで送ったりしてそのときの相手の反応から判断します。また、さりげない話題について手紙やメールを交わすことで、相手の気持ちを聞きだそうともするでしょう。英語学習に関していえば、(1)
授業中の態度を観察する、(2) 音読テストやインタビュー・テスト、あるいは、スピーチや英作文で態度的な側面を評価する、(3)
こうした活動の後で、どこが大変だったか、どこが楽しかったか、などを質問し、その回答を分析することで全体の様子を知ろうとする、ということになるでしょう。この場合、「分析」などと言っても大げさなことではなく、教師の望む方向から見た場合に、生徒のコメントが「非常に肯定的」「どちらかというと肯定的」「どちらかというと否定的」「完全に否定的」のどれに入るかを分類し、その割合を見るのです。さしあたりは教師の抱く疑問に関連のない事柄は一時的に除けて考え、その後、必要に応じて、また、別の視点から分類します。これを時系列で繰り返せば、「内面の変化」は見えてくるはずです。

 ところで、上の「恋人」のたとえは、英語授業でのアクション・リサーチとはそぐわない点がひとつあります。どこでしょうか。日常的観察、活動の評価、コメントの分析など、いづれも英語授業のARに当てはまります。だが、非常に重要な点で、しかも、実際に先生方が勘違いする点で、大きな違いが両者にはあるのです。

 それは、本心を直接聞くことができないと考えていることです。確かに、恋人なら直接尋ねても正直には答えないでしょうし、答えてもあまり信頼度は高いとはいえません。しかし、もし、あなたが恋人ではなく、親友だとしたらどうでしょうか。親しさの度合いにもよるでしょうが、かなり本音に近い内容が聞けるはずです。だとすれば、生徒に対するときに、恋人のように考えるのではなく、生徒の友達としての立場から生徒の本音を聞く姿勢が大切だということになります。生徒の恋人役は英語であって、教師ではないのです。教師は友達として2人の仲を取り持つ立場なのです。それなのに、授業に対するアンケートを、まるで恋人からの返事のように読んでしまうので、嫌われてはいないかと恐ろしくなって直接聞くことができないのです。授業に関するアンケートをするなら、「先生のこれからの指導の参考にしたいので、自分の考え方がどんなふうに変わったか、アンケートに答えてください。また、感想も自由に書いてくれると、思わぬ発見があるので、できるだけ沢山書いてください。成績には全く関係がありません。」と依頼します。

 これには、教師の日ごろの生徒に接する態度が重要です。英語はしっかり勉強して欲しいけれど、君たちが成長してゆくことこそ一番大切だと思っていると伝え、生徒の信頼を獲得することが大切なのです。信頼されていれば、頼みに応じる生徒は沢山いるはずです。その意見を、整理してゆけば、生徒の内面も見えるはずです。ただ、注意点もあります。いくら友達でもふざけたり、わざと意地悪な意見をいう人も中にはいるものです。それにいちいち傷つくことのないように、心の準備が必要です。生徒のコメントを自分が批判されているわけではなく、英語学習についての意見や要望を書いているのだから、たとえ授業に批判的な意見でも、裏返せば自分への応援歌だと考えるようにします。ですから、ちょうど数量的な調査でも、「調査結果」に解釈を加えて「結論」を出すように、こうした質的調査でも、やはり内容を吟味し「解釈」することが必要なのです。

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☆英語教員指導力向上研修メーリングリスト
 【授業改善プロジェクト担当】高等学校課 長崎政浩
 PHONE 088-821-4907 FAX 088-821-4547
<EMAIL> masahiro_nagasaki@ken2.pref.kochi.jp
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11/24/2007

AR Navigator 2007 No.27 Follow-up ミニゼミナール(2)

皆様へ

佐野先生のミニゼミナール(2)では、仮説の設定についての悩みに答えていただきました。

仮説の設定は、とても悩ましい問題です。この研修の一年目から、受講者の皆さんの最大の悩みでした。自分がやろうとしていることが、正しいのかどうか。本当に、このままで効果があるのかどうか。不安を感じて当然だと思います。

もちろん、的確な仮説を立てて、理想的に授業が改善されていくことが、重要なのは言うまでもありません。妥協せず、より良きものを探究しましょう。我々はプロなのですから。

しかし、それにもまして重要なことがあるのです。佐野先生の言葉をかりると、「不安はあるが、自分のやってきたことと生徒の可能性を信じて、一喜一憂せずに前進しつづける教師を生徒は期待しているのです。」さらに、佐野先生はこうも述べています、「「現状の中で、この生徒の状態をすこしでも改善するために、私に何ができるだろうか?」と考えることからアクションリサーチは始まるのです。」と。

より優れた課題の分析、的確な仮説設定、力量あふれる実践、着実な検証、それらはすべて必要です。今後、ますます重要になるかもしれません。しかし、決してそれだけで「教師」という職業はできているわけではない。授業をとおして、生徒に伝わる「熱」のようなものが必要なのだと思います。

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11/18/2007

AR Navigator 2007 No.26 佐野先生のミニゼミナール(2) 仮説はこれでいいのかな?

佐野先生のミニゼミナール 第2回 ARの質問に答える(2)

  松山大学  佐野正之

 みなさん、こんにちは。「ARの質問に答える(1)
」は読んでいただけましたか。少しは役にたつ情報がありましたか。今回もまた、「うーん・・」と考え込むような質問です。

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質問:仮説はとても大切だと思います。私もずいぶんと考え、苦労して立てた仮説なのですが、実際にやってみると、これが本当によいのかどうか自信がもてません。どうしたらよいでしょうか。
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佐野先生:
 この質問の答えに悩んでしまう理由は、答えはあるようでないからです。理屈で言えば、仮説が良いか悪いかは、直面している問題の解決にどれだけ成功する可能性があるかで決まるわけですから、「上手く問題の解決に繋がる仮説であれば、それはよい仮説で、繋がらない仮説は駄目な仮説だ」ということになります。ですから、「仮説が良いかどうか」と悩んでいるよりも、実際に2週間程度は実践してみて、その後の生徒の様子を見て判断するのがひとつの方法です。変化はすぐに出ないので、勇気を出して粘ってみることも必要です。ただ、それでも仮説に自信は持てないかもしれません。仮説が合うか合わないかは、ちょうど仲人さんがお見合いを設定するようなもので、幸せなカップルになるかどうかは、結婚してかなり時間を経過しないと分からないのですから。と言っても、これでは質問に答えたことにならないでしょうね。回り道になりますが、例を挙げて説明しましょう。

 アクション・リサーチはよく医療に例えられます。先生が医師で生徒は患者です。患者が気分がすぐれないで医師を訪れたとします。すると医師は、問診やらレントゲンやら心電図などで患者の体調の原因を探ります。原因がすぐに分かる場合は、それに対処する処方箋を作成し、注射とか投薬とかの手当てをします。でも、すぐに原因が分からないこともよくあるでしょう。その場合でも、医師は患者を投げ出すわけにはゆきませんから、もっとも可能性の高い原因を考え、それに対応する処方を設定し、しばらくはそれを実行してみて、患者の様子が改善に向かっていれば処方を続け、向かっていなければ、別の処方を考えることになります。

 アクション・リサーチの場合も、生徒の実態を調べるために事前調査を実施し、改善に役立つだろう対策を「仮説」として設定します。だが、困ったことに、病気の場合よりも英語授業の場合には要因が複雑に絡んでいて、加えて、レントゲンや心電図のように正確に原因を探る方法も確立していません。せいぜいのところ、アンケートで調べたり、観察したり、小テストで英語力の診断をしたりすることができる程度です。ところが、地域や学校の教育環境やクラスの人間関係など、教師だけでは対応でき要因が授業を妨害することがしばしばあります。ということは、教師がどんなに緻密な仮説を立てたところで、上手くいかない場合もあるということです。ですから、「この仮説はどこでも、誰がやっても、絶対に誤りがない」と言い切れる仮説を立てることは不可能なのです。

 というと、ずいぶん悲観的に聞こえるかもしれません。しかし、これは客観的な事実ですから、事実は正直に認めるべきです。これを認めた上で、「現状の中で、この生徒の状態をすこしでも改善するために、私に何ができるだろうか?」と考えることからアクション・リサーチは始まるのです。もし、絶対に誤りのない対応策がわかっていれば、最初からその対策を実行すればよいわけで、それが明確には分からないからアクション・リサーチで解決策を探るのです。しかし、やみくもに対策を試みても、事態を好転させるどころか、悪化させるだけに終わるでしょう。ですから、できるだけ事前調査をいろいろな方法でやって、生徒の問題点を正確に探ることに努めなければなりません。また、生徒の協力を得て、一緒に授業改善に取り組む姿勢になってもらうように説得し、また、場合によっては褒美をちらつかせ、個々の生徒との関係の親密化を図るなど、手を変え品を変え生徒とチームになる努力をすることが大切です。

 また、一方で、教師には理論が必要です。医師が診断を下すときには、医学の知識が背後にあると同様に、教師の指導法や仮説の設定の背後には、英語教育の理論や、これまで成功した指導例の知識が必要です。そのためには、拙著『はじめてのアクション・リサーチ』(大修館)を読んだり、これまで行われたアクション・リサーチの実践レポートを参照して基礎的な知識を得る努力をします。と同時に、同僚の授業を参観してもらい意見交換を活発にすることによって、英語を教えるプロとしての技能や知識や根性を身につけることが大切です。たとえば、クラスの「書く力」がテストで悪かったとして、「それでは、書く時間を多くしよう」と短絡的に考え、教科書のコピーや和文英訳だけをむやみに多くして満足しているようでは駄目です。なぜなら、「書く」ことができるには「読める」ことが必要だし、「読む」ためには「聞いて分かる」ことが必要だし、また、そのためには単語の練習が欠かせないからです。生徒の書けない原因がどこにあるのかを体系的に探り、それへの対応を考えた仮説を立て、授業を実践することが必要です。

 最初の質問に戻ると、結局のところ、自分の立てた仮説に自信を持つには、生徒の実態をできるだけ正確に把握し、関連する知識や技法を身につけ、また、生徒と協働して問題解決に向かう姿勢をもつことが必要です。それでもまだ、不安が残るかもしれません。よい意味の不安は、常に心に隠し持つべきです。不安はあるが、自分のやってきたことと生徒の可能性を信じて、一喜一憂せずに前進し続ける教師を生徒は期待しているのです。大空に飛び出すギリシャ神話のイカロスのように、「勇気ひとつを道連れに」進んでこそ、プロの教師です。自信を持ってがんばりましょう。

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11/17/2007

AR Navigator 2007 No.25 Follow-up ミニゼミナール(1)

受講者の皆様へ

佐野先生のミニゼミナール第1話、お読みいただけたでしょうか?今後も、佐野先生からの熱い、そして、心のこもったメッセージが届けられます。ARを本当に理解するために必要なアドバイスだけでなく、教師の生き方を考えるうえでも、示唆に富んだものになっていると思います。ぜひ、ご愛読ください。

第1話のフォローアップです。リサーチの検証にあたって、事前テスト、事後テストのあり方について質問がありました。皆さんのARも検証の時期にさしかかっていると思いますので、ぜひ、ご参照ください。

佐野先生のアドバイスのポイントは:

佐野先生「また、ARの成果は数量的なデータだけで判断しないのが原則です。理由は、数量的なデータは、たまたまこの時点で表れた結果に過ぎないと考えるからです。ARの成果を正しく見るには、普段の授業観察や、小テストの成績や自己評価、生徒のアンケート結果、生徒のつぶやきなどを総合して判断します。その意味では、教師の授業中のメモや、生徒のノートや作品なども貴重な資料となるのです。また、教師自身の判断や、授業を他の教員に観察してもらった際のコメントなども資料にします。こうしていろいろな資料を総合的に判断して、このARが効果があったかどうかを判断するのです。」

でした。

テストで客観的なデータを得ることは、確かに大切なのですが、事後テストの点数を上げることや数値データのアップダウンがすべてではないと言うことです。もちろん、それが目的でもありません。結果をもとに、自分自身の授業について、「考えること」が重要なのです。そして、その考察が授業改善や自らの力量アップにつながっていくのです。

Speech evaluationについて書かれた雑誌に、次のような一節がありました:

Criticism is easy; we hear it all the time in every walk of life.
However, criticism is the language of cowards. Criticism is negative.
Even a critique (a term used by non-Toastmasters), being a critical
analysis, almost sounds like a put-down. Evaluation on the other hand
considers the value, the good aspects, and adds value with helpful
suggestions for improvement.

リサーチの結果が思わしくなかったとして、批判することは簡単なことです。しかし、単なる批判からは何も生まれません。ARに必要な検証(評価)の意義は、この一節にある"considers
the value, the good aspects, and adds value with helpful suggestions
for improvement."することでしょう。

楽観的になりすぎてもいけないとは思うのですが、このようなpositiveな姿勢で自らの実践を検証していくことが大切だと思います。

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11/12/2007

AR Navigator 2007 No.25 佐野先生のミニゼミナール( 1 ) 事前テストと事後テスト

皆様へ

佐野先生のミニレクチャーの続編として、今回から「佐野先生のミニゼミナール」をお送りします。「佐野先生のミニゼミナール」は、レクチャーとはちがって
interactiveなものを目指しています。受講者の皆さんと佐野先生の間で、いろいろとやりとりをしながら配信していきたいと思います。ぜひ、様々な質問や疑問点をお送りください。

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佐野先生のミニゼミナール( 1 )

 皆さん、今日は。ご無沙汰しています。皆さんのアクション・リサーチは順調に進んでいますか。まとめに時期が近づくにつれて、「これまでの進め方でよかったのだろうか?」とか、「一応やってはみたものの、自信がない」などの問題意識が生まれるものです。そこで、これから数回に渡り、皆さんから寄せられた質問に答えることにします。必ずしも、この回答が当てはまるとはいえないですが、参考にはなると思うので、是非読んでください。また、自分で抱えている問題があれば、メンターの先生や指導主事に連絡して質問を寄せてください。歓迎します。それでは、When
your life is full of lemons, make lemonade! の精神で頑張りましょう。

                                  松山大学  佐野正之


質問:
 調査を客観的にするためには、数量的なデーターが必要だと言われています。そのため通常、事前と事後のテストをパラレルに行うことが大切だとされていますが、同じテストを使用すれば、事前テストの記憶の影響で事後テストが良い結果になるかもしれないし、あるいは、英語学習が進んでいるのだから成績が良くなって当然で、よくなったのがARのせいだと言い切れないと思うのですが。事後テストと事前テストの関連を教えてください。

佐野先生:
 これは多くの人に関る良い質問ですね。ARの結果を客観的に伝えるには、教師の印象や生徒の感想などばかりでなく、数量的な資料があったほうが説得力があります。そのためには、出だしで調べた生徒の実態が、ARの後でどのように変化したかを数値で示すことが原則です。話しを分かりやすくするために、生徒の語彙力を伸ばすことを目的にして、出だしの調査で英検の過去問を利用して生徒の語彙を調査したと仮定しましょう。

 そうすると、上の質問の意味は、「事前調査と同じ問題で、事後テストをしてもよいのですか」ということになります。答えは原則としては「Yes」です。ただ、条件があります。事前と事後の間に少なくとも3ケ月が経過しており、かつ、事前テストの正解を生徒に示していない場合です。正解を示していれば答えが記憶に残っているかもしれないし、期間が短ければ、問題に慣れているからです。しかし、この原則がどのテストでも通用するわけではありません。たとえば、長文読解の場合は、たとえ、正解は示していなくとも、一度目を通した英文の内容はより早く理解ができるし、英作文の場合でも、一度扱ったテーマはより容易に書き進めることができるので、こうした場合は、同じレベルの別の問題を与えて調べるべきでしょう。

 上の質問には、もう一つの質問が隠れています。すなわち、「調査で出た結果をARの効果と判断してよいのか」ということです。こうした疑問がでるのは当然で、ARで特別な工夫をしなくとも英語力は伸びているはずだから、事後テストの成績がそのまま、ARの成果と言い切れないということです。これもそのとうりです。事前テストと事後テストの成績の比較は、いわゆる「調査結果」であり、それについて判断を下して「結論」を出す必要があります。言い換えれば、調査結果がプラスだったからというだけで、ARの効果を断定することはできないのです。

 では、結果を判断して結論を出すには何が必要なのでしょうか。

 数量的なデータ(この場合はテストの成績)を解釈するには、「もし、このARを実施しないで、いままでどうりの授業を進めていたら、どの程度の伸びが期待できたか。その数値と比較して、事後テストの結果はどうか?」という視点で判断するのが基本です。もちろん、ARをしなかった場合の成果は具体的に知ることはできないのですが、たとえば、4月からARを始める前の時期までの伸び率と、ARで工夫してからの伸び率を比較して考え判断材料にします。また、前年度までの平均的な数値とARを実施したクラスを比べてみたり、あるいは、同じ年の他のクラスと比較して資料を得ることもできるでしょう。

 また、ARの成果は数量的なデータだけで判断しないのが原則です。理由は、数量的なデータは、たまたまこの時点で表れた結果に過ぎないと考えるからです。ARの成果を正しく見るには、普段の授業観察や、小テストの成績や自己評価、生徒のアンケート結果、生徒のつぶやきなどを総合して判断します。その意味では、教師の授業中のメモや、生徒のノートや作品なども貴重な資料となるのです。また、教師自身の判断や、授業を他の教員に観察してもらった際のコメントなども資料にします。こうしていろいろな資料を総合的に判断して、このARが効果があったかどうかを判断するのです。

 また、発音の調査、スピーキングの調査、ライティングの調査などは、最初から評価の基準を定めて事前調査をすることは、実際は時間がなくてできないのが実情でしょう。その場合は、差し当たり録音とかコピーとかして、資料だけを残しておきます。その上でARの結果をまとめる上での必要に応じて、その資料のどこを使うかを判断して、分析することにします。全員の分析が時間的に無理があれば、無作為に数名の生徒を選んでその生徒についてだけ分析することも可能でしょうし、あるいは、「上位5名」「下位5名」を選択して調べることもできるでしょうし、逆に、上位と下位の生徒を除外した「中位の10名」を対象にすることもできるでしょう。分析の対象としてどれを選ぶか、また、どの資料を集めるかなどは、全て「このARは何を目標としているのか」というリーサーチ・クエスチョンとも関連して、結局、どのような方法が授業改善に結びつくのかを明確にするためのものであることを心に留めて実施することが大切です。最後に、ARは論文を書くために実施するのではなく、授業改善が目標なのですから、その視点からリサーチの意味を総括することがなによりも重要です。それでは、幸運を祈ります。

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☆英語教員指導力向上研修メーリングリスト
 【授業改善プロジェクト担当】高等学校課 長崎政浩
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11/01/2007

The creative individual has the capacity to free himself from the web of social pressures in which the rest of us are caught. He is capable of questioning the assumptions that the rest of us accept.

- John W.Gardner