11/12/2007

AR Navigator 2007 No.25 佐野先生のミニゼミナール( 1 ) 事前テストと事後テスト

皆様へ

佐野先生のミニレクチャーの続編として、今回から「佐野先生のミニゼミナール」をお送りします。「佐野先生のミニゼミナール」は、レクチャーとはちがって
interactiveなものを目指しています。受講者の皆さんと佐野先生の間で、いろいろとやりとりをしながら配信していきたいと思います。ぜひ、様々な質問や疑問点をお送りください。

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佐野先生のミニゼミナール( 1 )

 皆さん、今日は。ご無沙汰しています。皆さんのアクション・リサーチは順調に進んでいますか。まとめに時期が近づくにつれて、「これまでの進め方でよかったのだろうか?」とか、「一応やってはみたものの、自信がない」などの問題意識が生まれるものです。そこで、これから数回に渡り、皆さんから寄せられた質問に答えることにします。必ずしも、この回答が当てはまるとはいえないですが、参考にはなると思うので、是非読んでください。また、自分で抱えている問題があれば、メンターの先生や指導主事に連絡して質問を寄せてください。歓迎します。それでは、When
your life is full of lemons, make lemonade! の精神で頑張りましょう。

                                  松山大学  佐野正之


質問:
 調査を客観的にするためには、数量的なデーターが必要だと言われています。そのため通常、事前と事後のテストをパラレルに行うことが大切だとされていますが、同じテストを使用すれば、事前テストの記憶の影響で事後テストが良い結果になるかもしれないし、あるいは、英語学習が進んでいるのだから成績が良くなって当然で、よくなったのがARのせいだと言い切れないと思うのですが。事後テストと事前テストの関連を教えてください。

佐野先生:
 これは多くの人に関る良い質問ですね。ARの結果を客観的に伝えるには、教師の印象や生徒の感想などばかりでなく、数量的な資料があったほうが説得力があります。そのためには、出だしで調べた生徒の実態が、ARの後でどのように変化したかを数値で示すことが原則です。話しを分かりやすくするために、生徒の語彙力を伸ばすことを目的にして、出だしの調査で英検の過去問を利用して生徒の語彙を調査したと仮定しましょう。

 そうすると、上の質問の意味は、「事前調査と同じ問題で、事後テストをしてもよいのですか」ということになります。答えは原則としては「Yes」です。ただ、条件があります。事前と事後の間に少なくとも3ケ月が経過しており、かつ、事前テストの正解を生徒に示していない場合です。正解を示していれば答えが記憶に残っているかもしれないし、期間が短ければ、問題に慣れているからです。しかし、この原則がどのテストでも通用するわけではありません。たとえば、長文読解の場合は、たとえ、正解は示していなくとも、一度目を通した英文の内容はより早く理解ができるし、英作文の場合でも、一度扱ったテーマはより容易に書き進めることができるので、こうした場合は、同じレベルの別の問題を与えて調べるべきでしょう。

 上の質問には、もう一つの質問が隠れています。すなわち、「調査で出た結果をARの効果と判断してよいのか」ということです。こうした疑問がでるのは当然で、ARで特別な工夫をしなくとも英語力は伸びているはずだから、事後テストの成績がそのまま、ARの成果と言い切れないということです。これもそのとうりです。事前テストと事後テストの成績の比較は、いわゆる「調査結果」であり、それについて判断を下して「結論」を出す必要があります。言い換えれば、調査結果がプラスだったからというだけで、ARの効果を断定することはできないのです。

 では、結果を判断して結論を出すには何が必要なのでしょうか。

 数量的なデータ(この場合はテストの成績)を解釈するには、「もし、このARを実施しないで、いままでどうりの授業を進めていたら、どの程度の伸びが期待できたか。その数値と比較して、事後テストの結果はどうか?」という視点で判断するのが基本です。もちろん、ARをしなかった場合の成果は具体的に知ることはできないのですが、たとえば、4月からARを始める前の時期までの伸び率と、ARで工夫してからの伸び率を比較して考え判断材料にします。また、前年度までの平均的な数値とARを実施したクラスを比べてみたり、あるいは、同じ年の他のクラスと比較して資料を得ることもできるでしょう。

 また、ARの成果は数量的なデータだけで判断しないのが原則です。理由は、数量的なデータは、たまたまこの時点で表れた結果に過ぎないと考えるからです。ARの成果を正しく見るには、普段の授業観察や、小テストの成績や自己評価、生徒のアンケート結果、生徒のつぶやきなどを総合して判断します。その意味では、教師の授業中のメモや、生徒のノートや作品なども貴重な資料となるのです。また、教師自身の判断や、授業を他の教員に観察してもらった際のコメントなども資料にします。こうしていろいろな資料を総合的に判断して、このARが効果があったかどうかを判断するのです。

 また、発音の調査、スピーキングの調査、ライティングの調査などは、最初から評価の基準を定めて事前調査をすることは、実際は時間がなくてできないのが実情でしょう。その場合は、差し当たり録音とかコピーとかして、資料だけを残しておきます。その上でARの結果をまとめる上での必要に応じて、その資料のどこを使うかを判断して、分析することにします。全員の分析が時間的に無理があれば、無作為に数名の生徒を選んでその生徒についてだけ分析することも可能でしょうし、あるいは、「上位5名」「下位5名」を選択して調べることもできるでしょうし、逆に、上位と下位の生徒を除外した「中位の10名」を対象にすることもできるでしょう。分析の対象としてどれを選ぶか、また、どの資料を集めるかなどは、全て「このARは何を目標としているのか」というリーサーチ・クエスチョンとも関連して、結局、どのような方法が授業改善に結びつくのかを明確にするためのものであることを心に留めて実施することが大切です。最後に、ARは論文を書くために実施するのではなく、授業改善が目標なのですから、その視点からリサーチの意味を総括することがなによりも重要です。それでは、幸運を祈ります。

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☆英語教員指導力向上研修メーリングリスト
 【授業改善プロジェクト担当】高等学校課 長崎政浩
 PHONE 088-821-4907 FAX 088-821-4547
<EMAIL> masahiro_nagasaki@ken2.pref.kochi.jp
<AR Navigator> http://kochi-e-project.blogspot.com/
<Homepage> http://www.kochinet.ed.jp/center/kyouka/kochieigo/index.htm

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