12/31/2007

メンタリングに注目

英語教員の全員研修にアクションリサーチを導入してから1年が経過したころだったでしょうか。自分自身の所属校で小規模な実践研究を、自らテーマを設定して長期的に行うという、あまりこれまで試みられてこなかった研修方法に手応えを感じ始めていました。それと同時に、基本的にたった一人で行う自己研修では、どうしても限界があることにも気づき初めていたのです。やはり、自分一人での振り返り(reflection)では、越えられない線があるのではないかと。授業の課題や問題点が分かっても、そして、それを自らの省察で乗り切ろうとしても、超えがたいハードルがあることを。課題の解決には、「伴奏者」がいるのではないかと。

 そこで、出会ったのが「メンタリング」という考え方でした。民間企業などで関心が高まり初めていた「コーチング」と同義だと言う人もいます。教育場面ではメンタリングと呼ぶことが多いようです。少し資料をあさってみたり、調べてみました。実際に、コーチング実践会の杉本良明さんをお呼びしてコーチングのワークショップを実施したのも、そのころでした。この研修に関わっていた指導主事がコーチングの手法を学びました。以後、受講者の皆さんのリサーチをサポートするために「メンタリング」を行うようにしたのでした。

 「メンター(mentor)」とは、メンティー(mentee)が、抱えた問題や課題を見出し、それを解決するために、ともに学び、ともに探求するものとして関わっていく者のことです。具体的には、「メンターが、質問型のコミュニケーションを使い、相手に取るべき行動を自ら選択してもらう」という行為がメンタリングであると言われます。何かを指示したり、指導・助言するのではなく、本人自らが課題を解決できるように導いてあげるという役割を担うのがメンターです。メンターという名称は、ギリシャ神話で、トロイ戦争に出陣するオデッセウスが我が子の教育を託した名教師の名に由来するそうです。

 しかし、今回の5年間の研修においては、メンタリングは十分に機能しませんでした。メンター一人の抱えるメンティーの数の多さ、電子メールでのオンラインサポートが中心でうまく深い人間関係を築けなかった、お互いに多忙な中で時間をみつけて本格的にメンタリングを行うことができなかったなど、課題が数多くありました。

 とは言え、今回実際に試みてみたことで、メンタリングのもつ力も実感できました。特に、教員の自己成長をうながすツールとして、大きな可能性を秘めていると思います。今後、メンタリングという考え方は、学校において不可欠なものになるだろうと思っています。このことに気づいている人はまだあまり多くないのですが。。。

12/30/2007

People are not persuaded by what you say, but by what they understand.

- Speeches by Management, Advanced Communication Series, Toastmaster International.

理解して、納得してくれたことでしか人は動かない。至極当たり前のことなのについ見過ごしてしまう事実。このフレーズに続いて、"To determine what motivates others, you have to see the world through their eyes and understand their point of view."とあります。人間同士のコミュニケーションの核心ですね。

12/29/2007

There are no diffucult students--just students who don't want to do it your way.

-Jane Revell & Susan Norman

"the strategy paid off"

Okajima, playing a rigorous Major League schedule for the first time, did become fatigued in September. But the Red Sox shut him down for a couple of weeks and the strategy paid off.

(Red Sox Official Webpageより)

岡島選手はメジャーの厳しい日程で後半少し疲れを見せて心配されていました。一つ目にとまったのは、なぜfatigued という言葉を使ったのか?なぜ、tiredじゃなかったかということでした。fatiguedをオンライン辞書でみると'extremely tired'と定義され、=exhaustedとなっていました。tiredとexhaustedの違いは比較的わかりやすいですね。念のため辞書(Longman Activator)でみると exhausted=extremely tired ,especially after a long period of hard work, exercise, walking or running etc has used up all your energyとなっています。used up all your energyの部分が意味を決定づけていますね。さて、fatigued。これは、形容詞としてのエントリーはなく、名詞 fatigueだけ掲載されていて、'a word used especially in medical contexts, meaning a state of extreme tiredness or weakness'とあります。例文として、"Long hours spent in front of a computer screen causes fatigue of the eye muscles."があります。岡島選手の場合も、疲労の度合いはチームドクターあたりが判断して、戦略的に休ませた、というニュアンスがあるので、fatigueを使ったのかもしれません。それが、文末の the strategy paid offにつながっているのでしょう。pay off というのは、この場合、My perseverance is paying off. / Your studies have paid off.のように使って「報われた」 という意味で使われるようですが、strategyとcollocateさせているところがおもしろかったので紹介しました。

12/28/2007

Teacher Portfolioの意義


 高知県の英語教員指導力向上研修(主催 高知県教育センター、H15~19実施)の一つの柱はアクション・リサーチに実施でした。受講者は、県内の全中高教員約420名。全員が年間を通しての、所属校での実践研究に取り組みました。

 このアクション・リサーチで重要な役割を果たしたのが、Teacher Portfolioです(写真)。Teacher Portfolioとは、「ある一定期間行った教授活動に関するあらゆるものを,参加する教師自らが積極的に保管・整理することによって,教師としての自己成長の過程と結果を記録するシステム」(参照 横溝紳一郎(1999)「アクション・リサーチとティーチング・ポートフォリオ:現職教師の自己成長のために」The Language Teacher 23:12)のことで、受講者は1年間の取り組みをすべてA4版のこのファイルに綴じ込んでいきます。

綴じ込んでいくものとして、


 ①自分自身の教育哲学(教育に関する考え方)をまとめたもの
 ②担当する授業・講座の詳しい説明(授業の内容、教科書、補助教材、授業形態など)
 ③年間指導計画やシラバス

 ④学習指導案(公開授業等で配布したものなど)
 ⑤授業を録画したもの

 ⑥授業に関する観察や反省の記録やメモ
 ⑦使用した教材
 ⑧授業観察者の評価、コメント
 ⑨生徒による授業評価、授業評価システムの結果

 ⑩生徒の作品


などを例示しています。右の写真は、ポートフォリオに綴じ込まれた授業の様子を記録したフィールドノートです。

このような「教師ポートフォリオ」を作成する意義は、主に次の3つがあると考えています。

(1)より深く、継続的な内省が可能になる。
(2)自己成長の喜びを実感できる。
(3)説明責任の証拠となる。

 私たちがやってきた授業研究は、多くの場合、1時間のみの授業公開や研究授業に過ぎませんでした。その中で、同僚や指導主事の助言をもらい授業の課題を探ってきたのです。しかし、私たちはそのような方法に限界があることに気づき始めていました。授業の本質的な改善には「複雑な要因をまるごととらえ、かつ長期的な新しい研究方法」(佐野,2000)が必要であるということに。

 教員の力量形成のツールとして teacher portfolio を活用することは、まだあまり広く認知されていませんし、具体的なノウハウも確立されていません。しかし、やはり授業のように、複雑な要因がからみあったものを読み解いていくには、このような質的な分析が不可欠だと考えています。teacher portfolioの活用の普及もふくめて、その可能性を探っていくつもりです。


You can't direct the wind but you can adjust the sails.

-Anonymous

AR Navigator 2007 No.32 Mission Completed

皆様へ

昨日は、報告会お疲れ様でした。

工夫された実践、工夫された発表がたくさんあって、とても良い会になったと思います。いろいろな実践のアイデアがあり勉強になりました。やっぱり、授業について話をする時の表情はみなさんとても、生き生きとしていると思いました。佐野先生からも、「皆さんの熱心なリサーチの様子に感動しました。」とのメッセージをいただいています。

今後も、ぜひ引き続き、授業を見つめ、生徒を見つめる reflective
practitionerであり続けてください。今回、思うような結果がでなかった先生も今回のリサーチで身につけた方法や考え方を生かしていただければ幸いです。

まだ、報告書の仕上げがありますが、ひとまず、お疲れさまでした。

それでは、良いお年を。

「失敗は終わりではない。それを追求していくことによって、はじめて失敗に価値が出てくる。失敗は諦めたときに失敗になるのだ。」土光 敏夫

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"a dominant 1-2 punch"

Sure, the Red Sox thought he could help out a little in the bullpen,
but nobody forecasted that he would be an All-Star, or that he'd be
part of a dominant 1-2 punch with Papelbon.

注)he=岡島投手
(Red Sox のOfficial web pageから)

「へー」という感じ。「人生はワンツーパンチ」という歌の歌詞がありますが、なるほどこんなふうに使うのかと。。。おもしろいですね。「ちょっぴりは活躍するだろうと思ったけど、まさかね」っていう感じがよくでている文です。1-2 punchは辞書には「左右の連続パンチ」と訳されていますが、"a dominant 1-2 punch with Paplebon"というフレーズに、岡島投手が重要な役割を果たしたという作者の評価がよく表れている気がします。

12/27/2007

ポスターセッションを使った実践研究発表-アクションリサーチの報告会から


  教員の力量を高める方法として、アクション・リサーチは大きな可能性を秘めています。高知県では、5年前に始まった英語教員の全員研修(詳細はこちら)でアクション・リサーチを導入、今年で県内の中高の英語教員全員の受講が終了しました。これで、アクション・リサーチは高知県の英語教員にとって「共通言語」になったと言えます。

 受講者は、1年間それぞれの職場で、テーマを決めて小規模な実践研究を行います(これがアクション・リサーチ)。年末の研究成果の報告会はポスターセッションで行います(2007.12.26、会場サンピア高知、高知県教育センター主催)。広い部屋に、机を配置し、発表者はアクション・リサーチの経過を蓄積したポートフォリオや授業で使った教材、プリントなどを展示。授業の様子をビデオにとってきて上映したり、生徒の音読のテープ録音を流している発表者もいます。様々な工夫とアイデアがちりばめられたポスターセッションになりました。会場のあちこちで、熱心に説明する声、楽しそうに談笑する声が聞こえます。真剣にメモをとる人もいます。デジカメで記録する人もいました。明らかに、通常の研究発表会とは異なった光景です。会場を満たす雰囲気は、とても和やかで、楽しげです。このような環境の中でこそ、同僚性も育つのではないかなあ。


ポスターセッションを選んだ理由はいくつかありますが、参加者全員が主体者にれるという点が最大のポイントです。当日は、発表者を交代して3ラウンド(各ラウンド約30分)で行いますが、全員が必ず発表者にもなり、オーディエンスにもなります。そして、オーディエンスの時も、決して「聞き役」ではありません。発表者との活発なインタラクションがあります。ポスターセッションでは「参加者のルール」を定めてあって、オーディエンスも重要な役割を担うことが期待されているのです。全員が必ず貢献できる役割があり、全員が発表もし、質問もします。大きな達成感が得られる発表形式です。

参加者同志が実践研究を共有することで、共に学びあえる。これがポスターセッションの魅力です。生徒の発表会や校内研修でも、もっともっと活用してほしい手法です。

"pleasantly surprising"

Of all the stories that developed on the 2007 Red Sox, Okajima's was
probably the most pleasantly surprising.

(Boston Red Sox Official webpageより)

Red Sox 岡島選手の活躍はうれしかったですね。本人もあくまで松坂君が主役だということで控えめだったし、あれほどの大活躍を期待した人はいなかったかもしれません。そのようなよろこびの気持ちが、まさに pleasantly surprising でしょうね。わかりやすい表現です。

12/25/2007

"In the world there are only two tragedies. One is not getting what one wants, and the other is getting it."
- Oscar Wilde (1854 - 1900), Lady Windermere's Fan, 1892, Act III

12/24/2007

『和訳先渡し授業の試み』



『和訳先渡し授業の試み』が世に出てから3年以上が経ちました。版も第3刷までいったようで、今でも少しずつは読まれているようです。

 本書が出てから、全国あちらこちらで、「訳読をはしょる」という実践がみられるようになりました。何と、ある県の教員採用試験でもテーマとして取り上げられたとのこと。しかし、まだまだ賛否両論あり、誤解ありです。そんなことで、和訳先渡し授業のそもそもの発想やその後見えてきたことなど、少しずつ残していきたいと考えています。

ちなみに、この研究には、TIF Projectという名前がつけられています。TIF Projectとは"Translation in First"の略。和訳先渡し授業の提案を通じて、高校英語教育を変えていこうとする試みです。この名称は、全英連高知大会(山田授業)で使用したテキストにあった紅茶の飲み方"Milk in First"からとったものです。

12/09/2007

AR Navigator 2007 No.31 佐野先生のミニ・ゼミナール(5)AR報告会

佐野先生のミニ・ゼミナール(5)

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 Q: アクション・リサーチの報告会がありますが、これまで研究会や学会で発表したこともないので、どのような準備をすればよいかわからず、困っています。
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 アクション・リサーチの発表は、通常の英語教育の学会発表とは異なる特徴があります。学会での発表は、いろいろな意見の人を相手に、自説の正当性を納得させるために話すのですから、証拠を挙げて説得に努めます。いわば、自分の論文を聞き手が納得するように売る必要があります。食事にたとえれば、シエフが腕を振るった料理で勝負するレストランの食事というところでしょうか。それに対して、アクション・リサーチの発表、特に、今回のように授業改善を目指したリサーチの発表は、いわば仲間内で家庭料理を紹介するようなものです。各家庭にはそれぞれ事情があり、その事情の中で精一杯努力して作った料理を紹介するのですから、「食材が悪い」とか「調味料の使い方が問題だ」などと批判するのはルール違反です。それぞれの料理の特徴を賞味した上で、レシピーを紹介しあい、工夫を出し合うのがアクション・リサーチの発表だといえるでしょう。

これは料理のレベルの上下の問題ではありません。質の違いです。一人の教師が自分の置かれたユニークな状況の中で実践したことや、その結果や解釈の報告に対して、それを共有していない者に批判したり軽蔑したりする資格はないからです。聞き手にできることは、まず、報告を受け入れ、その上で状況が似ているなら、自分の工夫に言及して参考にしてもらうことでしょう。ですから実践報告する側で、「こんなことを話したら、批判されるのではないか」とか「レベルが低いと笑われるのではないか」という不安を持つ必要はありません。誰も、家庭の料理を批判する資格はないのですから。

ただ、逆に言うと、家庭料理を紹介するときには、自慢の料理のレシピーを知りたいと思うのは当然でしょう。「食材が悪い上に、調味料の加減を間違いたいので、失敗作になりました」などと言われると招かれた客はがっかりです。もちろん、立派な食材をそろえることができなくて、欲しい調味料もない場合はどの家庭でもあるでしょう。それでも、そうした状態の中で、どんな工夫をしてこの味を出したのか、その工夫が聞きたくて集まっているのです。ですから、「生徒がやる気がなくて失敗しました」だとか、「忙しくてできませんでした」などと平気で言う人が居たとしたら、その人の誠実さを疑いたくなります。こんなことは「根性なしの、恥知らず」が言う言葉です。

もちろん、料理が失敗することはあります。それは食材が良くても悪くても起こることでしょう。失敗したと自分が思う場合には、その失敗の原因がどこにあるのか、どうしたら防げるのか、次にやるとしたらどこを変えてやるかを詳しく説明して欲しいものです。そういう失敗談は、ちょうどご飯のおこげのように、それはそれなりにおいしいものであり、それを味うことで得るものも多いのです。ですから、自分が予想した結果が出なかったとしても、落ち込む必要はありません。生徒や環境を逃げ口上にせずに(もちろん、特殊な事情があるなら、それを話してもらうことは理解を深める意味では必要ですが)、失敗を前向きに捕らえ、そこから学ぶことに焦点を当てて紹介して欲しいものです。アクション・リサーチの目標は、生徒の変容だけでなく、教師がこのリサーチを通して何を考え、感じ、その結果どのような変容を遂げたかを知ることにもあるのですから。

ここまで、発表する内容について話しましたが、発表の仕方にもアクション・リサーチは特徴があります。まず、第一人称で「私は・・・・」で話しを続けます。そのことによって、客観的な事実だけでなく、自分の問題意識、感想、実践、そこで考えたこと、苦労したことなどを一緒に話せるからです。ですから、肩肘を張らずに、くだけた仲間内の報告という形で発表を進めます。とはいえ、ハンドアウトだけでは、実践の様子がうまく伝わらないかも知れません。ビデオとか、写真とか、生徒の作品とか、生徒の感想文、また、使用したワークシートなど、できるだけ実物やそれに近いものを見せると、発表がいきいきとしてきます。生徒の声を録音したものでもよいでしょう。そうした小道具を用意すると発表が盛り上がります。

一方、聞く側も、仲間内の発表となるように、発表者を囲んで報告を聞きます。また、聞き終わったら、発表の中で自分の興味に合致した点を取り上げ、共通の基盤を確認したうえで、質問や意見を言うようにします。しかし、アクション・リサーチの発表では、どちらが正しいとか誤っているという判断をすることは控えます。というのは、それぞれの先生の状況は体験や考えかたによって、複数の回答があると考えるからです。アクション・リサーチをすることによって、先生は「教え方を学ぶ生徒」にもなるのですから、それぞれの実践から自分に参考になることを選んで聞くという姿勢が大切です。

当日は、私も一部だけになるかも知れませんが、発表を聞いて勉強させていただくつもりです。今から楽しみにしています。でも、先生方の本当の意味での実践研究は、この研修が終わってから始まるとも言えるでしょう。指導要領がじきに改定され、また、新たな挑戦を強いられることになります。そのときには、ぜひ忘れずに思い出して欲しいのです。高知には5年間のアクション・リサーチの体験が共有されているのだということを。それは大きな財産であり、力になると私は信じています。

それでは、皆さん。坂本竜馬の熱い心と夢をふところに、高知の英語教育を進めてください。期待しています。高知の英語教育に栄えあれ!

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12/03/2007

AR Navigator 2007 No.30 佐野先生のミニ・ゼミナール(4) リサーチの結果をどうみるか

佐野先生のミニ・ゼミナール(4)

お元気ですか。いよいよ残された時間が限られてきましたが、無事にリサーチは進んでいますか。今回は次のような質問が寄せられました。

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質問:生徒との関係があまりにも近いため、子どもたちのアンケートでは変化が読み取りにくかったり、教師を思って書かれたように受け取れる結果だったりしました。テストの点数データも用いましたが…それとは別に意識の変化を見たかったときにそういう難しさを感じていました。なんとか客観的な見方ができないか、と思っていました。
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佐野先生:「意識の変化を見たい」という点では、「ゼミナール(3)」で扱ったのと同じ問題です。ですから、そこと重なる部分は繰り返すことはしません。しかし、「生徒との関係があまりに近いために、アンケートでは変化が読み取りにくい」というのは、具体的にはどのような問題があるのでしょうか。少人数クラスで、筆跡なども先生が知っているので、正直には書けないと生徒が考えてしまうということでしょうか。また、「教師を思って書かれたと受け取れる結果」というのは、生徒が先生に対する遠慮から批判的なことは書こうとしない感想文が多いということでしょうか。よくは分かりませんが、少人数クラスだと教師も生徒も遠慮が働いて、ストレートにものが言えない雰囲気ができることはあるのかも知れません。ただ、この点は深入りすることはやめます。

この質問は、別の見方をすれば、レポートのまとめ方についての悩みのように見えます。すなわち、「良いリサーチは、成績などの数量的なデータも、アンケートなどの質的なデータでも、次第に改善してゆく形が客観的に見えるはずなのだが、自分のレポートでは、生徒の内面の変化がアンケートでは現れていない。それで良いのだろうか?」という不安があるように思います。確かに、この両面で改善の姿が見えるリサーチはかっこよく見えます。ただ、リサーチの狙いは論文としてのまとまりではなく、生徒の実態の改善であり、教師の振り返りから生まれた認識の深まりです。生徒の実態のなかには、アンケート結果も入りますが、生徒の感想文や教師の観察の結果から生まれた問題意識も入ります。

ですから、なんらかの理由でアンケート結果では実態が見えてこないのであれば、生徒に学期を振り返って感想文を書かせ、その中から共通するキーワードを選び、その点でプラスの評価をしている人数、マイナスの評価をしている人数を示し、代表的なコメントを選んで紹介するだけでも、クラスの姿は見えると思います。また、ここで出てきた結果を教師の立場から解釈し、結論づけると同時に、それが自分の今後についてどのような意義のあったリサーチであったか、今後、どのような改善の視点が必要かなども加えます。

具体例がないと分かりにくいかも知れません。たとえば、リサーチのテーマが「英語を積極的に話す生徒の育成」だとします。これを直接アンケートで「あなたは英語を積極的に話すようになりましたか」と質問しても、教師の期待している答えを先読みして回答するので、信頼性がないと教師の側で考えたとします。その場合は、「この学期の英語授業を振り返り、感想を自由に書いてください。自分でがんばったこと、嬉しかったこと、苦労したこと、自分で変化したと思ったことなどは必ず書くようにしてください」と伝えて、自由に書かせます。宿題にしてもよいかも知れません。その感想文を集め、「家庭学習をするようになった」「授業以外でも英語を聞くようになった」「辞書を引くようになった」「英語をはずかしがらずに話すようになった」などなど、生徒の感想文に書かれているコメントを箇条書きして出します。そのそれぞれについて、たとえば、「家庭学習をしなくなった」とコメントがあれば、最初の項目にはマイナスが一人というように集計してゆきます。もちろん、あまり数の多くない項目も出てくるでしょうが、プラスやマイナスを合わせてコメントの多い項目を集めて集計して、クラスの全体的な様子を解釈するのです。

ところが、感想文を書くことを嫌うクラスもあるでしょう。その場合は、人数の少ないことを幸いに、時間を見つけて個人面談することも考えられます。生徒だけでできる課題を用意し取り組ませると同時に、名簿順に一人ずつ別室に呼び出し面談するのです。あいまいな返事は切り込んで行って、普段は隠れている本音を聞きだすように質問を工夫します。しかし、あまり尋問風にならないように気をつかい、「先生に教えて欲しい」という姿勢で友好的に臨むと同時に、終了時には必ず協力を感謝します。こんな風にして引き出した言葉をもとに、先に説明した分類方法でクラスの全体的な方向を探ることができます。

レポートを形よくまとめることよりも、実際に授業が改善されたり、あるいは教師が問題の本質をより深く理解できたリサーチであれば、レポートの完成度は気にする必要はありません。学会で発表するとか、論文にまとめるとなると、妥当性だとか信頼性が大切で読者を納得させる資料を十分そろえる必要がありますが、授業改善が目的の場合は、形式よりも実利です。このリサーチをやることで、クラスや生徒がどのように変わってきたか、教師がどのような認識を得たか、などの視点は感想文でしか表現できません。実際に海外で行われているアクション・リサーチの論文には、感想文を集めたものが沢山あります。数量的なデータやアンケートの集計がなくとも、説得力のある感想文もりっぱな資料で、判断材料になるということなのです。

それでは、残りの時間も短くなっていますが、皆さんの熱意あふれる実践に触れることを楽しみにしています。高知県での悉皆研修の花であったアクション・リサーチが見事に根付いて、英語教育の研究がますます盛んになることを期待しています。最後に、高知の教師魂よ、永遠なれ!

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12/02/2007

The measure of a country's greatness should be based on how well it
cares for its most vulnerable populations.

-Mahatma Gandhi
「失敗は終わりではない。それを追求していくことによって、はじめて失敗に価値が出てくる。失敗は諦めたときに失敗になるのだ。」

-土光 敏夫

12/01/2007

AR Navigator 2007 No.29 Follow-up ミニゼミナール(3)

皆様へ

12月に入りました。時の流れは早いものです。

リサーチも終盤。これまでの進捗状況はどうでしょうか?成果の見えてきた人、まだあまり変化の感じられない人、いろいろいると思いますが、せっかく時間をかけて一つのことに取り組むのですから、ご自身で達成感を感じられるよう、ラストスパートをかけてください。

さて、佐野先生のミニゼミナール。佐野先生の「恋」の手ほどき(?)、楽しんでいただけたでしょうか。恋人どうしであれ、生徒と教師との間であれ、人の心理というものは、簡単に数値には表れないものです。

佐野先生は、このことについて、とても重要な指摘をしています。「ちょうど数量的な調査でも、「調査結果」に解釈を加えて「結論」を出すように、こうした質的調査でも、やはり内容を吟味し「解釈」することが必要なのです。」と。

データは、データに過ぎない。もちろん、データの客観性は大切ですが、数値だけでは何も意味をもちません。結局、それにどのような「意味を付与する」かに、かかってくるといえるのでしょう。データをできるだけ客観的にながめ、その中から、何を読み取り、どう自分自身に生かすか、そこにかかってくるのです。

授業というのは、教師、生徒、教材のインタラクションから成り立つ、非常に複雑なプロセスです。データは、それを読み解く「手がかり」に過ぎません。「手がかり」なしでは、教師側の独善に陥ってしまう危険性がありますから、大切な手がかりを、澄み切った目で見つめなおして、授業をよりよいものにしていきたいですね。

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