12/03/2007

AR Navigator 2007 No.30 佐野先生のミニ・ゼミナール(4) リサーチの結果をどうみるか

佐野先生のミニ・ゼミナール(4)

お元気ですか。いよいよ残された時間が限られてきましたが、無事にリサーチは進んでいますか。今回は次のような質問が寄せられました。

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質問:生徒との関係があまりにも近いため、子どもたちのアンケートでは変化が読み取りにくかったり、教師を思って書かれたように受け取れる結果だったりしました。テストの点数データも用いましたが…それとは別に意識の変化を見たかったときにそういう難しさを感じていました。なんとか客観的な見方ができないか、と思っていました。
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佐野先生:「意識の変化を見たい」という点では、「ゼミナール(3)」で扱ったのと同じ問題です。ですから、そこと重なる部分は繰り返すことはしません。しかし、「生徒との関係があまりに近いために、アンケートでは変化が読み取りにくい」というのは、具体的にはどのような問題があるのでしょうか。少人数クラスで、筆跡なども先生が知っているので、正直には書けないと生徒が考えてしまうということでしょうか。また、「教師を思って書かれたと受け取れる結果」というのは、生徒が先生に対する遠慮から批判的なことは書こうとしない感想文が多いということでしょうか。よくは分かりませんが、少人数クラスだと教師も生徒も遠慮が働いて、ストレートにものが言えない雰囲気ができることはあるのかも知れません。ただ、この点は深入りすることはやめます。

この質問は、別の見方をすれば、レポートのまとめ方についての悩みのように見えます。すなわち、「良いリサーチは、成績などの数量的なデータも、アンケートなどの質的なデータでも、次第に改善してゆく形が客観的に見えるはずなのだが、自分のレポートでは、生徒の内面の変化がアンケートでは現れていない。それで良いのだろうか?」という不安があるように思います。確かに、この両面で改善の姿が見えるリサーチはかっこよく見えます。ただ、リサーチの狙いは論文としてのまとまりではなく、生徒の実態の改善であり、教師の振り返りから生まれた認識の深まりです。生徒の実態のなかには、アンケート結果も入りますが、生徒の感想文や教師の観察の結果から生まれた問題意識も入ります。

ですから、なんらかの理由でアンケート結果では実態が見えてこないのであれば、生徒に学期を振り返って感想文を書かせ、その中から共通するキーワードを選び、その点でプラスの評価をしている人数、マイナスの評価をしている人数を示し、代表的なコメントを選んで紹介するだけでも、クラスの姿は見えると思います。また、ここで出てきた結果を教師の立場から解釈し、結論づけると同時に、それが自分の今後についてどのような意義のあったリサーチであったか、今後、どのような改善の視点が必要かなども加えます。

具体例がないと分かりにくいかも知れません。たとえば、リサーチのテーマが「英語を積極的に話す生徒の育成」だとします。これを直接アンケートで「あなたは英語を積極的に話すようになりましたか」と質問しても、教師の期待している答えを先読みして回答するので、信頼性がないと教師の側で考えたとします。その場合は、「この学期の英語授業を振り返り、感想を自由に書いてください。自分でがんばったこと、嬉しかったこと、苦労したこと、自分で変化したと思ったことなどは必ず書くようにしてください」と伝えて、自由に書かせます。宿題にしてもよいかも知れません。その感想文を集め、「家庭学習をするようになった」「授業以外でも英語を聞くようになった」「辞書を引くようになった」「英語をはずかしがらずに話すようになった」などなど、生徒の感想文に書かれているコメントを箇条書きして出します。そのそれぞれについて、たとえば、「家庭学習をしなくなった」とコメントがあれば、最初の項目にはマイナスが一人というように集計してゆきます。もちろん、あまり数の多くない項目も出てくるでしょうが、プラスやマイナスを合わせてコメントの多い項目を集めて集計して、クラスの全体的な様子を解釈するのです。

ところが、感想文を書くことを嫌うクラスもあるでしょう。その場合は、人数の少ないことを幸いに、時間を見つけて個人面談することも考えられます。生徒だけでできる課題を用意し取り組ませると同時に、名簿順に一人ずつ別室に呼び出し面談するのです。あいまいな返事は切り込んで行って、普段は隠れている本音を聞きだすように質問を工夫します。しかし、あまり尋問風にならないように気をつかい、「先生に教えて欲しい」という姿勢で友好的に臨むと同時に、終了時には必ず協力を感謝します。こんな風にして引き出した言葉をもとに、先に説明した分類方法でクラスの全体的な方向を探ることができます。

レポートを形よくまとめることよりも、実際に授業が改善されたり、あるいは教師が問題の本質をより深く理解できたリサーチであれば、レポートの完成度は気にする必要はありません。学会で発表するとか、論文にまとめるとなると、妥当性だとか信頼性が大切で読者を納得させる資料を十分そろえる必要がありますが、授業改善が目的の場合は、形式よりも実利です。このリサーチをやることで、クラスや生徒がどのように変わってきたか、教師がどのような認識を得たか、などの視点は感想文でしか表現できません。実際に海外で行われているアクション・リサーチの論文には、感想文を集めたものが沢山あります。数量的なデータやアンケートの集計がなくとも、説得力のある感想文もりっぱな資料で、判断材料になるということなのです。

それでは、残りの時間も短くなっていますが、皆さんの熱意あふれる実践に触れることを楽しみにしています。高知県での悉皆研修の花であったアクション・リサーチが見事に根付いて、英語教育の研究がますます盛んになることを期待しています。最後に、高知の教師魂よ、永遠なれ!

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☆英語教員指導力向上研修メーリングリスト
 【授業改善プロジェクト担当】高等学校課 長崎政浩
 PHONE 088-821-4907 FAX 088-821-4547
<EMAIL> masahiro_nagasaki@ken2.pref.kochi.jp
<AR Navigator> http://kochi-e-project.blogspot.com/
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