12/09/2007

AR Navigator 2007 No.31 佐野先生のミニ・ゼミナール(5)AR報告会

佐野先生のミニ・ゼミナール(5)

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 Q: アクション・リサーチの報告会がありますが、これまで研究会や学会で発表したこともないので、どのような準備をすればよいかわからず、困っています。
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 アクション・リサーチの発表は、通常の英語教育の学会発表とは異なる特徴があります。学会での発表は、いろいろな意見の人を相手に、自説の正当性を納得させるために話すのですから、証拠を挙げて説得に努めます。いわば、自分の論文を聞き手が納得するように売る必要があります。食事にたとえれば、シエフが腕を振るった料理で勝負するレストランの食事というところでしょうか。それに対して、アクション・リサーチの発表、特に、今回のように授業改善を目指したリサーチの発表は、いわば仲間内で家庭料理を紹介するようなものです。各家庭にはそれぞれ事情があり、その事情の中で精一杯努力して作った料理を紹介するのですから、「食材が悪い」とか「調味料の使い方が問題だ」などと批判するのはルール違反です。それぞれの料理の特徴を賞味した上で、レシピーを紹介しあい、工夫を出し合うのがアクション・リサーチの発表だといえるでしょう。

これは料理のレベルの上下の問題ではありません。質の違いです。一人の教師が自分の置かれたユニークな状況の中で実践したことや、その結果や解釈の報告に対して、それを共有していない者に批判したり軽蔑したりする資格はないからです。聞き手にできることは、まず、報告を受け入れ、その上で状況が似ているなら、自分の工夫に言及して参考にしてもらうことでしょう。ですから実践報告する側で、「こんなことを話したら、批判されるのではないか」とか「レベルが低いと笑われるのではないか」という不安を持つ必要はありません。誰も、家庭の料理を批判する資格はないのですから。

ただ、逆に言うと、家庭料理を紹介するときには、自慢の料理のレシピーを知りたいと思うのは当然でしょう。「食材が悪い上に、調味料の加減を間違いたいので、失敗作になりました」などと言われると招かれた客はがっかりです。もちろん、立派な食材をそろえることができなくて、欲しい調味料もない場合はどの家庭でもあるでしょう。それでも、そうした状態の中で、どんな工夫をしてこの味を出したのか、その工夫が聞きたくて集まっているのです。ですから、「生徒がやる気がなくて失敗しました」だとか、「忙しくてできませんでした」などと平気で言う人が居たとしたら、その人の誠実さを疑いたくなります。こんなことは「根性なしの、恥知らず」が言う言葉です。

もちろん、料理が失敗することはあります。それは食材が良くても悪くても起こることでしょう。失敗したと自分が思う場合には、その失敗の原因がどこにあるのか、どうしたら防げるのか、次にやるとしたらどこを変えてやるかを詳しく説明して欲しいものです。そういう失敗談は、ちょうどご飯のおこげのように、それはそれなりにおいしいものであり、それを味うことで得るものも多いのです。ですから、自分が予想した結果が出なかったとしても、落ち込む必要はありません。生徒や環境を逃げ口上にせずに(もちろん、特殊な事情があるなら、それを話してもらうことは理解を深める意味では必要ですが)、失敗を前向きに捕らえ、そこから学ぶことに焦点を当てて紹介して欲しいものです。アクション・リサーチの目標は、生徒の変容だけでなく、教師がこのリサーチを通して何を考え、感じ、その結果どのような変容を遂げたかを知ることにもあるのですから。

ここまで、発表する内容について話しましたが、発表の仕方にもアクション・リサーチは特徴があります。まず、第一人称で「私は・・・・」で話しを続けます。そのことによって、客観的な事実だけでなく、自分の問題意識、感想、実践、そこで考えたこと、苦労したことなどを一緒に話せるからです。ですから、肩肘を張らずに、くだけた仲間内の報告という形で発表を進めます。とはいえ、ハンドアウトだけでは、実践の様子がうまく伝わらないかも知れません。ビデオとか、写真とか、生徒の作品とか、生徒の感想文、また、使用したワークシートなど、できるだけ実物やそれに近いものを見せると、発表がいきいきとしてきます。生徒の声を録音したものでもよいでしょう。そうした小道具を用意すると発表が盛り上がります。

一方、聞く側も、仲間内の発表となるように、発表者を囲んで報告を聞きます。また、聞き終わったら、発表の中で自分の興味に合致した点を取り上げ、共通の基盤を確認したうえで、質問や意見を言うようにします。しかし、アクション・リサーチの発表では、どちらが正しいとか誤っているという判断をすることは控えます。というのは、それぞれの先生の状況は体験や考えかたによって、複数の回答があると考えるからです。アクション・リサーチをすることによって、先生は「教え方を学ぶ生徒」にもなるのですから、それぞれの実践から自分に参考になることを選んで聞くという姿勢が大切です。

当日は、私も一部だけになるかも知れませんが、発表を聞いて勉強させていただくつもりです。今から楽しみにしています。でも、先生方の本当の意味での実践研究は、この研修が終わってから始まるとも言えるでしょう。指導要領がじきに改定され、また、新たな挑戦を強いられることになります。そのときには、ぜひ忘れずに思い出して欲しいのです。高知には5年間のアクション・リサーチの体験が共有されているのだということを。それは大きな財産であり、力になると私は信じています。

それでは、皆さん。坂本竜馬の熱い心と夢をふところに、高知の英語教育を進めてください。期待しています。高知の英語教育に栄えあれ!

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☆英語教員指導力向上研修メーリングリスト
 【授業改善プロジェクト担当】高等学校課 長崎政浩
 PHONE 088-821-4907 FAX 088-821-4547
<EMAIL> masahiro_nagasaki@ken2.pref.kochi.jp
<AR Navigator> http://kochi-e-project.blogspot.com/
<Homepage> http://www.kochinet.ed.jp/center/kyouka/kochieigo/index.htm

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