7/31/2007

AR Navigator 2007 No.18 充実した協議にするために

皆様へ

暑いですね。ちょっぴり欲求不満の残ったサッカーアジア杯も終わり、いよいよ
8月。来週には夏期集中研修が始まります。

夏期集中研修での授業改善プロジェクトの流れは、Navigator No.15でお知らせ
したところですが、およそのイメージはつかめていただけたでしょうか。

小グループで行うプロジェクト班別協議が3日間のハイライトの一つです。ここ
を充実させるために、いくつかお願いしたいことがあります。

1)ポートフォリオは絶対に忘れないように
   ※必要な課題が全部入っているか確認を!

2)ポートフォリオで振り返り
   ※夏期集中研修までにじっくり眺めておいてください。
    大切なのは「ポートフォリオ」そのものではなく、
    「ポートフォリオ」をもとに、何を、どう考えたか
    なのですから。
    
3)現物をもってきてください
   ※授業の話をするときは、「具体的なもの」があることが
    重要です。教科書、ワークシートなどはもちろん、生徒の
    作品、テスト、授業評価の結果など、協議のなかで伝えよう
    とすることを補強(support)してくれるevidenceをもってきて
    ください。100の説明よりも、現物です。

4)スタート地点が分かるものを
   ※生徒の英語力の現状、授業の様子など、リサーチのスタート地点
    が分かるものがあると良いと思います。テストの結果、生徒の書いた
    英語、録音したテープ、授業のビデオなど。

5)どこを目指していますか?
   ※どのような変化、どのような改善を目指しているか。明確なゴール像
    をもっておくことも大切です。
    

7/29/2007

AR Navigator 2007 No.17 佐野先生のミニ・レクチャー(9)

佐野先生のミニ・レクチャー(9)

授業は賽の河原の石積みか?

皆さん、お久しぶりです。「ミニ・レクチャーはどうしたのだろう?」と思っ
ていた方もおられたことでしょう。実は、大学は夏休みが長くて、つい昨日、よ
うやくこのレクチャーで紹介してきたクラスの後期の授業が始まりました。

前期の授業の総括と期末のテスト結果は「ミニ・レクチャー(8)」でお知らせ
しましが、おおまかに言えば、学生の書く力も意欲もかなり向上し、後期は、教
師からのヒントがなくとも、与えられた話題についてまとまりのある200 語程度
の英文を書けることを目標にする、英文の正確さを増す指導の工夫をする、学生
の自主的な学習を励ますという方針を書きました。また、夏休みの宿題には、
150 語程度のスピーチを書いてくること、さらに、意欲のある者は教科書の文法
問題をやってくることという指示を出していました。

さて、昨日、久ぶりに教室に出て驚きました。中央の席には誰も座っておらず、
隅に固まり大声で雑談していて、私の声さえ届かないありさまです。前期末には、
「ペアで座る」とか「意欲的に発話する」というルールは、ほぼ全員に守られて
いたのに、この授業の有様は、前期の開始時期と同じく雑然としていて、しかも、
宿題をやってきた学生は3分の1にも満たないのです。まるで、ここまでの努力
が水泡に帰したかのようでした。「これじゃ、賽の河原だ」とがっかりしました
が、すぐに考え直しました。

ある意味では、こうした姿は無理からぬことだと思ったのです。夏休み明けの
最初の授業だから、いろいろ話したいことがあるだろうし、また、最初の授業は
スケジュールや評価方針などが中心で、授業は行わない先生が多いからです。ま
た、前期末のムードの高まりは、個々の学生の意欲から生まれたものではなく、
勢いで盛り上がった部分もあったからです。逆にいうと、多くの学生は、後期に
私がどうでるか仲間はどうか様子を見ていて、一番、自分が傷つかない「やる気
のない態度」を取っているのだと考えたのです。

実は、私はこうなるだろうと、ある程度、予測していました。ですから、型ど
うり期末テストの返却と解答の解説をし、全体的な成績の分布や英語を書く力の
実態を紹介したあとで、次ぎのような「振り返り」の活動をさせました。すなわ
ち、4月の最初の授業に、自己紹介の英文とこの講義への抱負を書かせたものを
収集していました。それをそれぞれに返して、4月に書いた英文と、前期のテス
トで書いた英文を比較させ、その違いについての感想と、後期の授業に掛ける思
いを用紙の背後に記述させ提出させたのです。すると、見かけの騒がしさとは対
照的に、前期の授業を肯定的に捉え、後期の授業で努力したい点を具体的に書い
た学生がほとんどで、この両方に対して否定的ないし消極的なコメントは、35
名中、3名だけでした。肯定的な意見を幾つか紹介します。

*前期に佐野先生の授業を受けて、英語の面白さがひとつ増えたと思います。外
国語としての英語をしっかり勉強していき、また、日本語でも自分の考えをしっ
かり表現できるように勉強しないと、英語の良さもわからないのではと思うよう
になりました。文章はかなり書けるようになったと思いますが、基礎的な文法の
誤りが多いので、自分の現実を捕らえた上で、実態を少しずつ改善してゆきたい
と思います。(成績B の学生)

*2つの英作文を比較すると、まず第一に、書く能力が少しずつ上がっていると
思いました。全体的な語数が2倍近くなったし、1つの英文の中でも単語数が多
く、複雑な構文が使えるようになっている。今、4月に書いた英文を見て思うの
は、同じ文法や単語を繰り返し使っていて、知っている熟語や単語を十分使いこ
なしていない、使いきれていないと思いました。まだ、今の私には100語の英
文を、ヒントなしに書くことは難しいと思うので、後期も頑張り、実力をつける
ことが先決です。やがては英語の教師になりたいので、気を引き締めて勉強しま
す。(成績A- の学生)

*初回と最終回の英作文を比較して、まず、文の内容が全く違うと思う。初回は、
ただ、知っている英文を並べているだけだが、最後の文章では、自分の伝えたい
内容がしっかりとつまった文章になっている。これは多分、カテゴリーを分けて
考えて段落をつけれるようになったことが大きいと思う。カテゴリー分けするこ
とによって、自分の伝えたいことが論理的に説明できた。さらに、単語もthink
だけではなくsuppose を使ったり、意味や深さによって単語を変えることもでき
たと思う。接続詞も最後には、いろいろな語を使って、4月のように切断された
文章ではなく、つながりを持った流れのある文章が書けている。後期は、関係詞
などもうまく使って、ピリオッドが多くならないように、なるべく一文の内容を
豊かにするように努力したい。(成績Aの学生)

*この度は、前期の単位をくださって感謝です。正直言って、私は英語は大の苦
手です。読んで訳したりするのはなんとかできるのですが、いざ、声に出してス
ピーチしたり、短時間で100語もの英文を書くというのは、私には苦痛でなり
ませんでした。何度も先生と言い争いをしましたね。今思えば、恥ずかしい思い
です。すみません。でも、はじめての頃に比べると、やはり英語力がついている
気がします。何よりも、前期の期末テストで、120語もの文章を書くことがで
きたのは、私にとってすばらしい快挙です。これも先生のおかげだと思います。
追伸:最近はNHKの「英語でしゃべらないと」という番組をよく見ています。後
期も頑張るぞ!(成績B-の学生)

これは記名式なので、教師に批判的なことは書きにくいという点を指し引いて
考える必要はありますが、大勢は前期の授業の進め方を肯定的に捉え、後期に関
しても前向きな姿勢を持っていることが伺えます。特に、興味深いのは最後のコ
メントで、この学生は第6回で紹介した、私の授業を最も厳しく批判した学生の
ものです。私への「おべっか」と読めなくもありませんが、彼の授業態度の変化
などから、私は本音が出ているのだと思います。ただ、彼が英語を苦手と考えて
いることには変わりません。後期は、こうした「やる気があるが英語が苦手な学
生」と「A やA- の力もある学生」を同時に伸ばして、かつ、クラス全体の到達
目標を達成する具体的な方法はどのようにするかを探ります。

--
長崎政浩  "You never really lose until you quit trying."
高知県教育委員会事務局 高等学校課 チーフ(学校教育担当)
780-0850 高知市丸の内1-7-53  【TEL】088-821-4907
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7/27/2007

AR Navigator 2007 No.16 佐野先生のミニ・レクチャー(8)

「前期の期末テストの結果から見えてきたこと」

 前期の期末テストでは、前号で予告したように、教科書やワークブックからは
言語形式に焦点化した時制を考えて動詞の原型を書き直す問題、前置詞や熟語表
現などの穴埋め問題、語順問題なども出しましたが、メーンは次ぎの課題でした。
 
「質問をヒントに、出だしの文に続けて、ペン・パルBillに帝京大学や大学生活
を説明する100語以上のまとまりのある英文を書きなさい。特に、パラグラフの
形、語順、動詞の時制に気をつけ、再度見直しなさい。最後に語数を数えて、記
入すること」

1) Where is the university?
2) How far is it from JR Tokyo Station?
3) How is the climate?
4) Which season is the best there?
5) What are good things about the university?
6) How do you spend a day there?
7) What are you going to send him for his birthday present? Why?

Dear Bill;
Today I'm going to tell you about my university, Department of
Education, Teikyo
University.

テスト時間は1時間ですが、大部分の学生は言語形式の問題は20分程度で終え
ていたので、約40分を掛けて英作文に取り組んだことになります。自己紹介と
か故郷紹介とか、気候とか、贈り物などのテーマは授業で扱っていますが、「大
学紹介」は新しい課題ですから、書き上げるには時間が掛かったようで、時間前
に提出した者は37名中2名だけでした。それだけ、熱心に取り組んだともいえ
ます。辞書は使用可ですが、教科書などは参照できません。英作文を採点し、結
果を数値的にまとめると次ぎのようになります。

・総合的評定      A- 7 名  B(B+, B-) 26名  C(C-) 4 名
・語数     最高 175 語  最低 49 語  平均語数 109 語
・global errorの数   最高 0 最悪  9 平均 2.4
・パラグラフの形    出来ている者 34 名  出来ていない者 3 名 

この結果を、到達目標に設定した「教師の与えた英文の質問をヒントにし、辞書
の使用を許せば、身近な話題について100語程度のまとまりのある英文を、
global errors は1個以内に押さえて、書くことができる」を基準に評価すると、

1) 語数に関しては十分満足がゆく結果である。また、書かれている内容も、質
問を手がかりにしながらも、自分の感想や意見が書かれていて、興味深いものが
多い。

2) 「まとまりのある英文」は、前期は内容的なパラグラフの構成よりは、形式
的な面だけを強調したのだが、その点では9割の学生が目標を達成している。

3) global errors に関しては、目標の設定自体がやや無理があったようだ。
Global errors

は全然ないという学生は3名しかおらず、A- のランクの学生の半数以上が1
個のエラーを犯している。質問に正しく答えることができない学生が多いのだか
ら、この結果は当然である。また、前期は指導の時間が十分ではなかった。正確
さをどのように高めるかが後期の課題である。以上が到達目標からの評価だが、
他に注目すべき点は、

4) 筆記テストの前日に実施した音読テストは、全員が真剣に取り組み、教師の
評価に満足せず、再度挑戦する者も数名いた。この場合も、テスト終了時点で、
Aと評価された学生に全体の前で音読させ、どの程度の読みが期待されているの
かを示した。

5) 私が最も力を注いだ英語学習への意欲づけは、この段階では成功している。
アンケートをとる時間がなかったが、音読や筆記テストの様子から判断すると、
英語学習に興味を持ち始めている学生が増えている。後期に、どう維持するかが
課題だが、その一つの方策として、夏休みの宿題にスピーチ(150 語の長さ)を
書き、最初の授業時間に発表させるので、暗記してくるようにと指示した。一方
で、英語検定や教科書の自学を薦め、実績を示した者は成績に反映すると告げて
ある。自学の習慣を育てる(と言っても限られた学生になるだろうが)ことも後
期の課題としたい。

 最後に、A-の評価を受けた学生の作品を紹介する。(誤りはまま。赤字は
global error)。
 
Dear Bill,
Today I'm going to tell you about my university, Faculty of
Education, Teikyo Univ.
My university is at Hachioji City in Tokyo. It takes two hours from
Tokyo Station by train. And, if you want to come here, you must get on
and off the train many times. It is difficult for you to come here.
But the university is a good place.
On you way to my university, you can see the mountain. The mountain
called Japanese people Mt. Takao. I like the mountain, because it is
very beautiful. As you can see, there are many flowers in the mountain.
By the way, do you like Japanese movie? My university appeared the
movie "Death
Note". How is your university? I want to hear. I'd like to
correspond with you.
     Your friend, Y. T.
     
この学生は、最初の授業で書かせた自己紹介では次ぎの英文を書いている。

 My name is Y. T. I'm from Ibaraki. I live in Horinouchi in Tokyo.
My favorite music is all. Especially I love Ray's music. And I love
basketball. So I belonged to basketball club until high school. I love
blue, because I like the sky and sea very much.

いずれも質問を与えているので、内容がそれによって制限されるところがある
のは事実だが、3ケ月後の前期のテストでは、教師の質問から発展して、より豊
かな表現を意図するようになった点は読み取れるだろう。もっとも、この学生の
自己紹介の作文は、最も上手く書かれていた作品だから、大部分の学生はより大
きな変化を見せているものてと期待できる。やってきた方向は、大筋では間違っ
ていなかった。

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☆英語教員指導力向上研修メーリングリスト
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【授業改善プロジェクト担当】高等学校課 長崎政浩
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7/23/2007

AR Navigator 2007 No.15 夏期集中研修のイメージ

皆様へ

いよいよ夏本番という感じになってきました。

 8月6日から始まる夏期集中研修ですが、どのような1週間になるか、大体のイメージをつかんでおいていただくと、参加しやすくなると思いますし、必要な準備も的確にできると思いますので、アクションリサーチに関する部分についてお知らせします。

(1)ポートフォリオ提出

 まず、初日にはポートフォリオの提出があります。研究協議の中で使用しますので、1日目の終了後に提出していただきます。提出いただいたポートフォリオは各メンターが、

 「必要な課題がそろっているか」

という点を中心に点検いたします。同時に、仮説設定までのプロセスがうまくいっているかという点にも注意を払いたいと思います。

ポートフォリオは7日に返却します。

 【お願い】自己点検欄を設けてありますので、提出前に点検を

(2)研究協議1〜3

6,8,9日の3日間は、それぞれ1時間づつの研究協議があります。3名のプロジェクト班で行います。1日1人が発表者となって、前半の取り組みについて、話し合います。発表者以外の皆さんは、ぜひ積極的に意見を述べてあげてください。リサーチの質の向上には絶対に必要ですから。

(3)事例研究

最終日の10日には、中学校1本、高校1本の事例研究を行います。事例発表自体の時間は10分間です。事例発表のあと、グループ協議を行い、最後に、佐野先生から助言をいただきます。

【お願い】ポートフォリオ点検後、中高それぞれ1名の先生に事例発表をお願いしますので、「笑顔で」お引き受けいただければ幸いです。

(4)講演

1週間の協議と事例研究を受けて、佐野先生からご講演をいただきます。きっと、9月からのリサーチの参考になると思います。


それでは、あと約2週間。これまでの取り組みをじっくり振り返っておいてください。

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AR Navigator 2007 No.14 佐野先生のミニ・レクチャー(7)

      「これまでの話しをまとめると。 また、こんなことができるかも。」

 通常のアクション・リサーチでは、新学期のできるだけ早い時期に生徒の実態をアンケートやテストで調べて対策をたてることになっていましたが、今回は、本格的なリサーチはつい2,3週間前に始まったばかりでした。どうしたのだろうと、疑問を感じておられる方もいるでしょう。実際のところ、これまでの実践は、リサーチというよりも、その基礎作りでした。具体的には、(1)
教師が自己紹介をかねて、授業にかける思いを語る。(2)
学生同士の交流を多くして、クラスのムード作りを図る。(3)授業の定型的なパタンになれさせる。(4)クラスのルールの確立を図るということでした。
こうしたことを通して、結局は、学生の希望も入れながら、共同の目標を設定することがねらいだったのです。また、その過程で、このグループの持つ長所や、弱い点、今後の方針なども探っていたのです。

 ですから、ここまでの動きをアクション・リサーチのフォマットで言えば、クラスの特徴、観察と省察、アンケート調査による実態把握、宿題や授業中の課題による英語力の把握に向けられていました。なぜ、このことにこれだけ時間を掛けたかというと、研修に参加した皆さんのリサーチにペースを合わせようとしたということがあります。研修では、夏休み前までに、実態の把握とリサーチ・クエスチョンの設定までもってくることになっていましたので、ヒントを提供するために、いつもの年よりは、実際の取り掛かりを遅らせたのです。通常であれば、夏休み前に仮説の第1ラウンドは終了しています。

 だが、それだけが理由ではありません。仕掛け(仮説の設定と実践)を遅らせても、クラスのムード作りにより多くの時間を掛けたらどうなるか、自分なりの興味もあったからです。これまでのミニ・レクチャーを読んでいただければ分かると思いますが、「動機を高めるには、準備段階になにが必要か」という問題をリサーチをしていたのです。いろいろな問題が未解決ですが、大筋では、狙いは達成されたようです。前期のテストが近いこともあって、出席率も8-9割、授業参加も積極的な者が出席者の7-8割程度ですから、これまでのクラスに比較すれば「気持ちが悪いくらい」に前向きです。例の厳しい批判をした学生も、肩たたき戦術(名前を思い出しておいて、授業前にひとことふたこと、誉めることばを言ってやる)が功を奏したのか、かなり積極的に授業に参加してくれています。もっとも、今週実施した音読テストは、教師の前で教科書を読まなければならないので、「にらまれてはまずい」という計算もあったことでしょう。

 ただ、書くことの力の伸びは、来週の期末テストの結果を見ないと分かりませんが、あまり大きくはないと思います。それでも、テストは予定どうり、教科書やワークブックからは言語形式に焦点化した、選択問題、並べ変え、書き直しなどだけを出し、中心は疑問文をそれを手がかりに、200語以上の英文を書くことにします。これまで、自己紹介や故郷紹介、好きな人への送りものなどのテーマを扱っているので、海外のペン・パルに帝京大学(位置、気候、季節ごとの売り、気にいっている点など)や、自分の学校生活などを紹介し、相手の誕生日の贈る送り物を説明する英文を書くことを出す予定です。話題は新しいですが、既習の表現で対応できるはずです。このテスト結果を基に、後記は疑問文で出すヒントをやめて、内容自体を学生に考えさせるようにし、疑問文でヒントを出した場合と大差のない、まとまりのある英文を書けることを目標にしてゆくつもりです。

 心配もあります。せっかくのクラスの盛り上がりが、2ケ月後の後期に持続することは考えられません。方策を考える必要を感じています。また、後期からの実践の仮説に関しても考える必要があります。これについては、前期の最終部分で、多少始めてみて効果がありそうだという感触を得ています。具体例を幾つか紹介すると、

(1) 中学校1年生の文型を疑問文にして、60個ほど選び、応対の仕方も一覧表にして手渡します。ペアを組ませて教師が読み上げる疑問文に素早く答えたほうを勝ちとして、5問で勝負をつけさせ、勝ちは勝ち組で、負けは負けでペアを作らせて、再び競わせ、何回も繰り返します。ここまでしか前期はできませんでしたが、後期はペアで質問も競わせる。その後、2年生、3年生の文型でも同じように実施することを考えています。

(2) この活動ができるようになったら、who, which, where, when, how, how far, how much,
why, etc,の疑問詞を板書するか、カードに書いておいて、教師のいう簡単な文について、上記の疑問詞を使った疑問文をできるだけ沢山、かつ素早く言えるゲームを考えています。例を挙げると、教師がI
play baseball.と基になる文を言ったら、
 Where do you play baseball? How often do you play it? With whom do
you play it?
など、ペアで素早く疑問文にできたほうが勝ちというゲームを考えています。

(3)理由や説明を考える頭の働きを活発化してもらうために、学生に言い逃れの言葉を考えさせる練習もしたいと考えています。これも最初の文を学生に考えさせると時間がとるので、教師が、たとえば、I
don't like English. という基になる文を言い、ペアの一人がそれを繰り返します。すると、すかさず、相手がWhy don't
you like English? と質問します。適当な理由を考えて、Well, I can't learn English
grammar. と答えます。すると相手は必ず、それに反論して、Oh, no. English grammar isn't
difficult at all. All you have to do is practice. というような流れを考えています。

 こうした活動は、学生が疑問文を作ることを苦手としていること、疑問文を作ることが発想を豊かにする練習になるのではないかと考えているからです。また、Why,
because の疑問文のやりとりが、やがてはdebate に発展できるのではないかとも思っています。実は
まだ、他にもいろいろアイデアはあるのですが、今日はここまで。

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7/16/2007

AR Navigator 2007 No.13 佐野先生のミニ・レクチャー(6)

   「数量的なデーターはどうしたのか」

 前回のレクチャーでは、アンケートの結果だけから目標の設定をしたように書きましたが、実は、そうではありません。これまでの宿題として出している質問をもとにした自由英作文の結果から、学生の「書く能力」を数量的にも把握していました。一般に、英作文の能力を見るには、(1)
内容的な豊かさ、(2)パラグラフの構成、(3)語彙の適切さ、(4) 文法的な正確さ、(5)
スペルや句読点の正確さの5点から判断します。ですから、数量的な調査ではこの視点に対応するデーターを集めるのですが、私の授業の場合は、そのそれぞれについて、かなり甘い基準を設定しています。

まず、 (1) の内容については、質問を与えてヒントを出しているので、もっぱら質問を利用して、どれだけ沢山英文を書いたかという総語数を手がかりとして判断しています。ですから、内容的なユニークさは、特に求めません。(2)
については、パラグラフの内容的なまとまりよりは、パラグラフとしての形式、すなわち、文章が幾つかのパラグラフでできていて、パラグラフの冒頭はindentしていればよしとします。(3)
については、意味の通る語であれば、多少不自然で、適切さに問題はあっても可とします。(4) の文法的な誤りは、意味の誤解を生むglobal
errors は減点を多くし、誤解を生まないlocal errors( 冠詞や複数形、前置詞など)
は指摘はしますが、評価の際には軽く見ます。(5)
では、スペルや句読点のほかに、文の途中で意味もなく大文字にすることはしないように注意しています。

調査の方法ですが、まず、授業中にヒントとなる質問文を与え、対話練習をさせたテーマについて、100
語の英文を書くことを宿題とし、次時に提出させます。それに目を通し、3段階(A, B, C) に評価して戻しています。そのそれぞれに+
/ーがつく(たとえば、A- とかC+)
のでかなり細分化された評価になりますが、実際は、上記の視点を頭に入れた、印象的、総括的な評価をしています。数量的なデーターは、戻した英作文に関して、学生の個々に自分の作品について計算させます。まず、総語数を数えさせ、次に文の数を数えさせ、総語数を文の数で割って一文の平均語数を計算させます。次ぎに、教師の赤線の入っていない文(=誤りのない文)を数えさせ、それを全体の文の数で割って、文法的な正確さや語彙の正確さを算出させます。スペルなどでも同様です。本来なら、教師が自分でチェックしたほうが正確さは増すのは当然ですが、そこまでする時間はありません。さらに、学生にも、自分の英作文の実態を知り、改善の方向を探るチャンスになると考えて学生に数えさせ、報告させています。ですから、数値的には、正確さに欠けることは否定できません。ただ、それまでに英作文の評価はすでについているので、数値を水増しして報告しても利益はないので、かなり信頼してよい数値のはずです。以下が概略です。

*宿題にして書かせた場合
  総語数の平均90 語 (最高139語−最低55 語)
  1文の平均語数 7.8語 (最高12 語−最低6. 5)
  パラグラフの構成(形式)が出来ている者 約6割
  誤りのない文が全体で占める割合 43% (最高81% —最低15%)

*授業時間中に15分の時間内で書かせた場合(対話練習後にテストとして実施した)
  総語数の平均 81 語 (最高160語—最低43 語)
  1 文の平均語数 7.1語(最高12.5- 最低6.0)
  パラグラフの構成(形式)が出来ている者 約5割
  誤りのない文が全体で占める割合 40% (最高65% - 最低15%)

以上、2つの数量的な調査結果は類似していていることがわかります。すなわち、時間が多くても15 分と制限した場合でも、学生が書ける英文は90
から80 語程度、パラグラフの構成を意識している者は約5から6割、誤りのない文は(この調査ではglobal errors とlocal
errors の両方を含んでいる)は約4割だが、global errors
に限定すれば、6割り程度に上昇することが分かりました。一方、一文中の平均的な語数(これは学習者が自動的に操作できる構文の複雑さを示すと考えられています)は、教師が質問で書く文のヒントを与えている現状では、前期の調査では除外して考えることにしました。すると、今後の指導目標は、語数を増やすこと、パラグラフへの意識を強化すること、さらには、global
errorsの誤りを減らすことを中心に指導を計画することになります。こうした数量的な調査を踏まえて、また、学生へのアンケート結果から、「前期の到達目標:教師の与えた英文の質問をヒントにし、辞書の使用も許せば、身近な話題について100語程度のまとまりのある英文を、global
errors は1け以内に押さえて、書くことができる」と設定したのです。もちろん、この目標を学生の全員が達成することを願いたいですが、能力差の大きなクラスでは、それは不可能です。7割から8割の学生が上記の目標を、期末テストで出す英作文(教師が与える質問をヒントにする)で達成することを期待することになります。また、落ちこぼれる学生には、いわゆるセーフテイネットを用意して、やる気さえあれば、単位が取れる保証をしてやることも必要ですが、この点はすでに前回で述べました。

ただ、総語数が40 語代の学生3、4名は、明らかにこうした授業の進め方にはついてこれない者たちです。彼らは教師が出す英語の質問に答えることさえできないのです。一機に救う方策はありませんが、もう少し、いろいろな形の疑問文に答える練習を与えてやる必要があるし、それが他の学生にもより素早く英文の構成を考えて書く「英語脳」の育成には効果がありそうです。次回は、ここまでの事前調査の方法をまとめて説明し、問題解決のための対策(仮説)についても考えてみましょう。

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