7/29/2007

AR Navigator 2007 No.17 佐野先生のミニ・レクチャー(9)

佐野先生のミニ・レクチャー(9)

授業は賽の河原の石積みか?

皆さん、お久しぶりです。「ミニ・レクチャーはどうしたのだろう?」と思っ
ていた方もおられたことでしょう。実は、大学は夏休みが長くて、つい昨日、よ
うやくこのレクチャーで紹介してきたクラスの後期の授業が始まりました。

前期の授業の総括と期末のテスト結果は「ミニ・レクチャー(8)」でお知らせ
しましが、おおまかに言えば、学生の書く力も意欲もかなり向上し、後期は、教
師からのヒントがなくとも、与えられた話題についてまとまりのある200 語程度
の英文を書けることを目標にする、英文の正確さを増す指導の工夫をする、学生
の自主的な学習を励ますという方針を書きました。また、夏休みの宿題には、
150 語程度のスピーチを書いてくること、さらに、意欲のある者は教科書の文法
問題をやってくることという指示を出していました。

さて、昨日、久ぶりに教室に出て驚きました。中央の席には誰も座っておらず、
隅に固まり大声で雑談していて、私の声さえ届かないありさまです。前期末には、
「ペアで座る」とか「意欲的に発話する」というルールは、ほぼ全員に守られて
いたのに、この授業の有様は、前期の開始時期と同じく雑然としていて、しかも、
宿題をやってきた学生は3分の1にも満たないのです。まるで、ここまでの努力
が水泡に帰したかのようでした。「これじゃ、賽の河原だ」とがっかりしました
が、すぐに考え直しました。

ある意味では、こうした姿は無理からぬことだと思ったのです。夏休み明けの
最初の授業だから、いろいろ話したいことがあるだろうし、また、最初の授業は
スケジュールや評価方針などが中心で、授業は行わない先生が多いからです。ま
た、前期末のムードの高まりは、個々の学生の意欲から生まれたものではなく、
勢いで盛り上がった部分もあったからです。逆にいうと、多くの学生は、後期に
私がどうでるか仲間はどうか様子を見ていて、一番、自分が傷つかない「やる気
のない態度」を取っているのだと考えたのです。

実は、私はこうなるだろうと、ある程度、予測していました。ですから、型ど
うり期末テストの返却と解答の解説をし、全体的な成績の分布や英語を書く力の
実態を紹介したあとで、次ぎのような「振り返り」の活動をさせました。すなわ
ち、4月の最初の授業に、自己紹介の英文とこの講義への抱負を書かせたものを
収集していました。それをそれぞれに返して、4月に書いた英文と、前期のテス
トで書いた英文を比較させ、その違いについての感想と、後期の授業に掛ける思
いを用紙の背後に記述させ提出させたのです。すると、見かけの騒がしさとは対
照的に、前期の授業を肯定的に捉え、後期の授業で努力したい点を具体的に書い
た学生がほとんどで、この両方に対して否定的ないし消極的なコメントは、35
名中、3名だけでした。肯定的な意見を幾つか紹介します。

*前期に佐野先生の授業を受けて、英語の面白さがひとつ増えたと思います。外
国語としての英語をしっかり勉強していき、また、日本語でも自分の考えをしっ
かり表現できるように勉強しないと、英語の良さもわからないのではと思うよう
になりました。文章はかなり書けるようになったと思いますが、基礎的な文法の
誤りが多いので、自分の現実を捕らえた上で、実態を少しずつ改善してゆきたい
と思います。(成績B の学生)

*2つの英作文を比較すると、まず第一に、書く能力が少しずつ上がっていると
思いました。全体的な語数が2倍近くなったし、1つの英文の中でも単語数が多
く、複雑な構文が使えるようになっている。今、4月に書いた英文を見て思うの
は、同じ文法や単語を繰り返し使っていて、知っている熟語や単語を十分使いこ
なしていない、使いきれていないと思いました。まだ、今の私には100語の英
文を、ヒントなしに書くことは難しいと思うので、後期も頑張り、実力をつける
ことが先決です。やがては英語の教師になりたいので、気を引き締めて勉強しま
す。(成績A- の学生)

*初回と最終回の英作文を比較して、まず、文の内容が全く違うと思う。初回は、
ただ、知っている英文を並べているだけだが、最後の文章では、自分の伝えたい
内容がしっかりとつまった文章になっている。これは多分、カテゴリーを分けて
考えて段落をつけれるようになったことが大きいと思う。カテゴリー分けするこ
とによって、自分の伝えたいことが論理的に説明できた。さらに、単語もthink
だけではなくsuppose を使ったり、意味や深さによって単語を変えることもでき
たと思う。接続詞も最後には、いろいろな語を使って、4月のように切断された
文章ではなく、つながりを持った流れのある文章が書けている。後期は、関係詞
などもうまく使って、ピリオッドが多くならないように、なるべく一文の内容を
豊かにするように努力したい。(成績Aの学生)

*この度は、前期の単位をくださって感謝です。正直言って、私は英語は大の苦
手です。読んで訳したりするのはなんとかできるのですが、いざ、声に出してス
ピーチしたり、短時間で100語もの英文を書くというのは、私には苦痛でなり
ませんでした。何度も先生と言い争いをしましたね。今思えば、恥ずかしい思い
です。すみません。でも、はじめての頃に比べると、やはり英語力がついている
気がします。何よりも、前期の期末テストで、120語もの文章を書くことがで
きたのは、私にとってすばらしい快挙です。これも先生のおかげだと思います。
追伸:最近はNHKの「英語でしゃべらないと」という番組をよく見ています。後
期も頑張るぞ!(成績B-の学生)

これは記名式なので、教師に批判的なことは書きにくいという点を指し引いて
考える必要はありますが、大勢は前期の授業の進め方を肯定的に捉え、後期に関
しても前向きな姿勢を持っていることが伺えます。特に、興味深いのは最後のコ
メントで、この学生は第6回で紹介した、私の授業を最も厳しく批判した学生の
ものです。私への「おべっか」と読めなくもありませんが、彼の授業態度の変化
などから、私は本音が出ているのだと思います。ただ、彼が英語を苦手と考えて
いることには変わりません。後期は、こうした「やる気があるが英語が苦手な学
生」と「A やA- の力もある学生」を同時に伸ばして、かつ、クラス全体の到達
目標を達成する具体的な方法はどのようにするかを探ります。

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長崎政浩  "You never really lose until you quit trying."
高知県教育委員会事務局 高等学校課 チーフ(学校教育担当)
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