7/16/2007

AR Navigator 2007 No.13 佐野先生のミニ・レクチャー(6)

   「数量的なデーターはどうしたのか」

 前回のレクチャーでは、アンケートの結果だけから目標の設定をしたように書きましたが、実は、そうではありません。これまでの宿題として出している質問をもとにした自由英作文の結果から、学生の「書く能力」を数量的にも把握していました。一般に、英作文の能力を見るには、(1)
内容的な豊かさ、(2)パラグラフの構成、(3)語彙の適切さ、(4) 文法的な正確さ、(5)
スペルや句読点の正確さの5点から判断します。ですから、数量的な調査ではこの視点に対応するデーターを集めるのですが、私の授業の場合は、そのそれぞれについて、かなり甘い基準を設定しています。

まず、 (1) の内容については、質問を与えてヒントを出しているので、もっぱら質問を利用して、どれだけ沢山英文を書いたかという総語数を手がかりとして判断しています。ですから、内容的なユニークさは、特に求めません。(2)
については、パラグラフの内容的なまとまりよりは、パラグラフとしての形式、すなわち、文章が幾つかのパラグラフでできていて、パラグラフの冒頭はindentしていればよしとします。(3)
については、意味の通る語であれば、多少不自然で、適切さに問題はあっても可とします。(4) の文法的な誤りは、意味の誤解を生むglobal
errors は減点を多くし、誤解を生まないlocal errors( 冠詞や複数形、前置詞など)
は指摘はしますが、評価の際には軽く見ます。(5)
では、スペルや句読点のほかに、文の途中で意味もなく大文字にすることはしないように注意しています。

調査の方法ですが、まず、授業中にヒントとなる質問文を与え、対話練習をさせたテーマについて、100
語の英文を書くことを宿題とし、次時に提出させます。それに目を通し、3段階(A, B, C) に評価して戻しています。そのそれぞれに+
/ーがつく(たとえば、A- とかC+)
のでかなり細分化された評価になりますが、実際は、上記の視点を頭に入れた、印象的、総括的な評価をしています。数量的なデーターは、戻した英作文に関して、学生の個々に自分の作品について計算させます。まず、総語数を数えさせ、次に文の数を数えさせ、総語数を文の数で割って一文の平均語数を計算させます。次ぎに、教師の赤線の入っていない文(=誤りのない文)を数えさせ、それを全体の文の数で割って、文法的な正確さや語彙の正確さを算出させます。スペルなどでも同様です。本来なら、教師が自分でチェックしたほうが正確さは増すのは当然ですが、そこまでする時間はありません。さらに、学生にも、自分の英作文の実態を知り、改善の方向を探るチャンスになると考えて学生に数えさせ、報告させています。ですから、数値的には、正確さに欠けることは否定できません。ただ、それまでに英作文の評価はすでについているので、数値を水増しして報告しても利益はないので、かなり信頼してよい数値のはずです。以下が概略です。

*宿題にして書かせた場合
  総語数の平均90 語 (最高139語−最低55 語)
  1文の平均語数 7.8語 (最高12 語−最低6. 5)
  パラグラフの構成(形式)が出来ている者 約6割
  誤りのない文が全体で占める割合 43% (最高81% —最低15%)

*授業時間中に15分の時間内で書かせた場合(対話練習後にテストとして実施した)
  総語数の平均 81 語 (最高160語—最低43 語)
  1 文の平均語数 7.1語(最高12.5- 最低6.0)
  パラグラフの構成(形式)が出来ている者 約5割
  誤りのない文が全体で占める割合 40% (最高65% - 最低15%)

以上、2つの数量的な調査結果は類似していていることがわかります。すなわち、時間が多くても15 分と制限した場合でも、学生が書ける英文は90
から80 語程度、パラグラフの構成を意識している者は約5から6割、誤りのない文は(この調査ではglobal errors とlocal
errors の両方を含んでいる)は約4割だが、global errors
に限定すれば、6割り程度に上昇することが分かりました。一方、一文中の平均的な語数(これは学習者が自動的に操作できる構文の複雑さを示すと考えられています)は、教師が質問で書く文のヒントを与えている現状では、前期の調査では除外して考えることにしました。すると、今後の指導目標は、語数を増やすこと、パラグラフへの意識を強化すること、さらには、global
errorsの誤りを減らすことを中心に指導を計画することになります。こうした数量的な調査を踏まえて、また、学生へのアンケート結果から、「前期の到達目標:教師の与えた英文の質問をヒントにし、辞書の使用も許せば、身近な話題について100語程度のまとまりのある英文を、global
errors は1け以内に押さえて、書くことができる」と設定したのです。もちろん、この目標を学生の全員が達成することを願いたいですが、能力差の大きなクラスでは、それは不可能です。7割から8割の学生が上記の目標を、期末テストで出す英作文(教師が与える質問をヒントにする)で達成することを期待することになります。また、落ちこぼれる学生には、いわゆるセーフテイネットを用意して、やる気さえあれば、単位が取れる保証をしてやることも必要ですが、この点はすでに前回で述べました。

ただ、総語数が40 語代の学生3、4名は、明らかにこうした授業の進め方にはついてこれない者たちです。彼らは教師が出す英語の質問に答えることさえできないのです。一機に救う方策はありませんが、もう少し、いろいろな形の疑問文に答える練習を与えてやる必要があるし、それが他の学生にもより素早く英文の構成を考えて書く「英語脳」の育成には効果がありそうです。次回は、ここまでの事前調査の方法をまとめて説明し、問題解決のための対策(仮説)についても考えてみましょう。

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☆英語教員指導力向上研修メーリングリスト
【研修HP】http://www.kochinet.ed.jp/center/kyouka/kochieigo/index.htm

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