6/29/2007

AR Navigator 2007 No.12 佐野先生のミニ・レクチャー(5)

         アンケート結果をどう読み、どう利用するか。

前回のミニ・レクチャーで私の授業のアンケート結果の概略を紹介しましたが、紙面の関係もあって、結果をどのように解釈し、それをどのように授業目標の設定やリサーチ・クエスチョンに生かしていったらよいか、くわしく説明できませんでした。実際、アンケートの結果が、自分が期待していたよりも悪かった場合に、その結果にショックを受けて怖気づいてしまい、授業改善の意欲を失うことはよくあることです。私の今回のアンケート結果も、私が予期してよりも、厳しい否定的なコメントがいくつかありました。

この場合、まず、注意しなければならないことは、適切な距離をおいて、アンケートの結果に対応することです。私の場合だと、否定的なコメントの数は予想した程度でしたが、最後で紹介したコメントは「先生は生徒の実態を正しく認識していない。力のない生徒を見捨てているのではないか」という厳しいものでした。このような場合にどのように対応したらよいのかを考えてみたいと思います。これは教師だけでなく、コメントを書いた生徒や、類似した考えを密かに持っている生徒に大きな意味を持っているのですから、十分、注意して対応することが必要です。以下、私が次ぎの授業時間にアンケート結果をどのように利用し、目標決定につないでいったかをお知らせします。

まず、正直に全体的な傾向を知らせました。授業の目標については賛成するものが約
5分の3、反対が5分の1、どちらともいえない(コメントなし)が5分の1だったこと、
また、授業の進度、宿題、文法説明などに関しての要望が多かったと伝えました。次ぎに、名前を伏せて、肯定的なコメントから何枚かを選び(8ケだった)、そのまま読みました。その後、否定的なコメントもいくつか(4つ)もそのまま読みました。この時に、肯定と否定のバランスが大切です。教師は「正直であろう」とするあまり、否定的なコメントを多く紹介しがちですが、これでは全体の姿が伝わらないので、肯定的なもの3に対して、否定的なものが1になる程度の数を選ぶことが大切です。ただ、後者に対しては、「否定的なコメントを教師にするには勇気がいるものだ。それをきちんと伝えてくれたことに感謝したい」と、まず、誉めます。特に、最後の厳しいコメントに関しては、「これだけ、論理的に意見を書けるのは、考える力のある証拠だ」と認めます。ただ、否定的なコメントには、「クラスの全員がとか、多くが・・・」と書いているけども、それは3分の1に満たない、すなわち、別の考えの人が多いことに注意させます。その上で、「ここが重要なのだが・・」と注意を引き付けておいて、次ぎのように言います。

 「この否定的なコメントをしてくれた人たちは、良い英語授業は、先生が分かりやすく文法を説明し、練習の解答に時間をかけ、和文英訳の答えも黒板に書くことだと考えているようだ。だが、こうした授業は君たちが中学校や高校で体験したものではなかったのか。それによって、本当に君たちの英語力はついたか。英語が話せるようになったか。書けるようになったか。こうした授業の進めかたは、良い点もあるが、悪い点もある。悪い点は、英語の勉強も他の教科の勉強と同じように、「理解すればよい」と思わせることだ。だが、英語の勉強は、実は「文法や単語を理解する」レベルで終わっていては、絶対に「使えるレベル」には到達しない。そのレベルになるには、人に教えてもらって分かるのではなく、自分で失敗し、その失敗の中から間違い見つけ、正しい形で自分で覚えてゆくことが大切なのだ。人によって、間違う場所も違うし、それを正しく覚える方法も違う。だが、英語の勉強は、英語を使うことがスタートだ。この授業では、それを友達との会話や英語を書くことで多くしようとしている。だから、この時に、自分の英語力の不足しているところは自分でカバーし、先生に訂正してもらった英文の誤りは、なぜ、それが誤りなのかを調べ、分からないときには先生に尋ね、暗記し、自分の力に変えてゆかなければならない。結局、自分の英語力には、自分で責任を持て」と強く説得します。

 その後、出された質問に答えます。「予習の仕方が分からない。どういう力が求められているかわからい、という質問があった。それは、教科書やワークブックの問題をやることが予習だと考えているからだ。そうではなく、教師が宿題として出している英文とその答えを暗記し、見ないで友達と会話できるように準備してくることが最も大切な予習だ。次ぎは、その会話をもとに行う英作文を、できるだけ長く書いてきて、先生に訂正してもらったら、その誤りから自分の英語力の不足を見つけ、それを補充する練習をすることだ。だから、教科書やワークブックは、あくまでも、君たちの英語力を補充するためのものだから、期末テストでも軽く扱うことになる」と説明します。

 次ぎに、生徒から出された進度とか、文法の説明とか、和文英訳の要望について、上に述べた基本路線に合致する限り、できるだけそうように努力するので、いつでも意見があったら知らせ欲しいと説明します。その他に、この機会を捕らえて、これまで徹底していなかったクラスのルールの注意もします。たとえば、ペアやグループ活動に参加しない生徒は、この授業の妨害になるので、みんなと協力して欲しいし、そのことによって、自分の英語力も伸びるはずである。また、どうしてもこうした英語授業に不安のある者は、その不安な点、学習した点を毎時間ノートに書いて貯めておき、期末テスト後に提出すれば、単位の認定に考慮する、などの点です。そして、最後に、全員にノートを出させて、
 「授業の最終合意目標:前期は身近な話題について、教師の出す英文の質問をヒントに辞書を使用すれば、100語程度のパラグラフの構成のできた英文を、global
errors 葉」1個以下で書くことができる」と書き取らせ、目標設定にします。

 このように、アンケート調査は結果を公表し、それについて生徒と話しあうことによって、彼らの学習に対する誤解を解き、また、クラスの目標設定のきっかけとするのです。

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☆英語教員指導力向上研修メーリングリスト
【研修HP】http://www.kochinet.ed.jp/center/kyouka/kochieigo/index.htm


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長崎政浩  "You never really lose until you quit trying."
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