3/11/2010

第5回GOIKEN(報告)

 3月7日(日)、これまで輪読学習を行ってきた『英語語彙の指導マニュアル』の著者である、東京電機大学の相澤一美先生を講師としてお招きし、中学生の学習必須語彙リストの作成と学習語彙リストを活用した語彙学習の活動やテストのアイデアについてご講演いただきました。

【中学生の学習必須語彙リストの作成について】
1 JACET8000(2003)の作成プロセス
JACET8000とは、国内の英語教育関連のリソースを組織的に集約し、科学的な方法で作成された語彙表である。
●作成プロセス
:1億語のBNCコーパス+サブコーパスを反映
  *BNC頻度順10万語リスト、BNC5516語リストを基礎データとする。
  *各種サブコーパス(検定教科書、雑誌、新聞、映画、児童文学、BBC, CNN)からサブコーパス頻度順位表(8000語)を決定する。
  *BNC頻度とサブコーパス頻度を対数尤度の視点から調整し上位8000語を選択する。
  *高校教科書コーパス頻度順表(4126語)と照合して再調整
2 JACET8000の限界
  品詞のタグがアルファベット順である、低頻度語が多く含まれている、4250語以外は無償で公開されていない。
3 科研プロジェクトでJACET8000を検証し、追加すべき語彙を調査。
 ●JACET8000の検証
*学習者に対して語彙テストを実施した結果、頻度と正答率はLevel4までは、ほぼ一定の割合で減少しており、頻度で難易度が説明できるが、 Level4からLevel6付近から正答率が横ばいとなり、Level4以上は頻度と難易度の関連が低い。
  *教員が難しいと感じる語数は、レベルと関連がある。漠然と頻度を難易度と感じている可能性がある。
→5000語レベルを基礎的な語彙と仮定すると、全体的な頻度と難易度を比べるとほぼ妥当と考えられる。しかし、個別に見ると、頻度の低い語もまじっている。また、日本人がよく使う単語も抜けている。
●追加すべき語彙の調査
*大規模コーパスや収集したコーパスを用いて、米語、口語、児童英語、教科書の4つのサブコーパスを構築する。
*4つのサブコーパスでの重複(レンジ)を重視しながら、頻度で上位の語から候補語を選定する。
*候補となった語をWeb版の電子辞書と照合して単語として確立している語を選定する。
4 中学生の学習必須語リストの作成への提言
●原則を明確化する
*品詞別(東書)を考慮するか、語形(開隆堂)にするか
*レンジを重視するか、教科書コーパスの頻度数を重視するか
*頻度、意味の幅、カタカナ語との関連、学習のしやすさ、発信の有用度(ご当地語彙を含む)などをどう考慮するか。
*小学校英語ノートとの重複語386語

【学習語彙リストを活用した語彙学習やテストのアイデア】
1 授業で導入する単語の取り扱い
 *単語を識別する。(絶対に覚える語、できるだけ覚える語、とりあえず意味だけ覚える語)
 *カタカナ語をリスト化する。
*小学校英語ノートとの重複語を定着させる。
2 語彙指導の3段階 
第1段階:導入 単語を識別して紹介
第2段階:定着 Contextの中で意味を定着させる:十分とは言えない現状がある。
第3段階:発展 まとめて体系的に教える。Writing・Speaking活動と語彙指導の活動をいかに連結するか

3 語彙指導と文法指導の融合
・安心シリーズ
・潜在記憶:「覚えよう」という意図をもたず、呈示される刺激について何らか処理を行った場合に、潜在意識に影響を与える。偶発学習の繰り返し回数の効果は、少なくとも半年程度は私たちの中に残る。
・カタカナ英語の活用

4 語彙サイズテストの限界:どれだけ単語を知っているかを測定できるか?
語彙サイズを推定するためのテストデザインの工夫
*1か月に同じ単語を4回見ることを6か月繰り返すと効果が大きい。例:100語の単語カードを1か月に数回6か月繰り返す。
*単語の意味を覚えているか自己評価する。DSソフトがある。
*ハードルの低い要求を最初に行い、学習者に無理をさせずに少しずつステップアップしてテストを行う。
       1文脈つき多肢選択肢 2多肢選択 3文脈つき翻訳 4翻訳
       -------------------------→ 
正答率 高                                正答率 低
         ○難易度の低いテストを繰り返し行うと記銘しやすい。

5 語彙リストの活用方法のアイデア (brainstormingによる)
①語彙リストの巻末に付録としてつける単語カード
*Basic500を切り取り式の単語カードにする。カードはレベル別に色を変え、今月はピンクカード、来月はブルーカードなどのようにカードのグループ毎に扱う。単語カードは、種類別に仕分けしたり、覚えているものと覚えていないものに分けたりする活動にも使用できる。(仕分け作業は記銘に効果がある。)
*単語カードを用いて、カルタ取りができるように、単語の語義定義をつける。
*動詞の活用カードを用いて、トランプ(ページワンのような)ができるようにする。
②CD ROMをつける。
*教員がリメイク可能なテストをつける。翻訳だけでなく文脈つき多肢選択肢など、数種のテストデザインをつける。更に、長期休暇中の課題や、課題テストをつける。
*ビンゴシートや定着を図るためのワーズシートを添付。
③語彙リストのテストに級を設け、Web上で受験し、級を認定する。教員が学習者の学習語彙サイズを把握できるシステムをつくるだけでなく、デジタルベース化されたもので個別学習ができるようにする。合格者には資格証をWeb上で発行する。
④語彙を網羅した例文をつけ、音読の家庭学習に活用してもらう。
⑤毎日1日1語選んで、My 語彙リストをつくる。
⑥語彙リストが辞書代わりとしても使えるように、巻末にアルファベット順のインデックスをつけると共に、カテゴリー・発音別の配列にする。
⑦赤い記憶シートをつける。
⑧入試が近い12月になると、その年度の高知県立高校の入試に出る単語を発表する。また、語彙リストは入試に持ち込み可能とする。
⑨音と文字がつながらない学習者のための個別学習を可能とする音声の出るソフト(文字を押すと音声がでるような)の開発。

相澤先生より:新学習指導要領や教科書といったリソースにとらわれず、「高知の語彙リスト」を作成してください。
感想
 語彙リストの選定に関わって、科学的な研究に裏付けされたリソース、選定方法を整理して学ぶことができ、大変有意義でした。
 音読や読解、文法の定着についての指導方法は多種多様ある反面、語彙に関しては、悩ましいところでしたが、語彙習得の過程や効果的な習得方法、多様なテストデザインを学び、最後のブレーンストーミングでは、画期的な活用方法のアイデアが出されました。作成の方向性、展望が見えてきました。
 相澤先生、本当にありがとうございました。  
                     (リポーター) 中河 圭子(附属中学校)

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