3/23/2010

関東甲信越英語教育学会2009年度春季研修会(報告)


 2010年3月21日(日)お茶の水大学附属高校で開催された標記研修会に参加したので、簡単にその内容を報告したい。
 同学会は中・高・大の英語教員が多数加入し、毎年夏に研究大会、春と秋に研修会を開催している。今回は全国各地から学会員以外の参加も多く、70名を越える参加者数であった。当初の予想は30名程度であったが、その予想をはるかに超える事前申し込み数だったとの報告があった。
 内容以外で最も印象的だったのは、講演以外すべての授業実践報告において必ずビデオによって授業報告がなされたことである。それぞれの発表者の伝えたいことが、授業ビデオに凝縮されていると感じた。生徒の様子がよく伝わるビデオであり、参加者の記憶に強く残ったのではないかと思う。
 今回の春季大会は「小・中・高・大の相互貢献の方途を求めて」というテーマで、以下のように、午前に2つの授業実践報告、午後に1つの講演と3つ目の授業実践報告という内容であった。
(午前)
 1.授業実践報告(久保野雅史先生:神奈川大学)
 2.授業実践報告(渓内 明先生:足立区立第十中学校)
(午後)
 3.講演(鈴木寿一先生:京都外国語大学)
 4.授業実践報告(中西美保先生:平塚市教育委員会)
 久保野先生の発表をお聞きするのはこれが2回目。今回は『教科書だけで大学入試は突破できる』(2009年、大修館書店)の執筆者であるということもあり、中高6年間を円滑に接続し、大学入試も問題ない英語授業のあり方について久保野授業の真髄を紹介していただいた。私は久保野先生の実践を聞き、4月の授業立ち上げで「先輩の勇姿ビデオ」を見せるようになった。私自身実践してわかったことは、身近な先輩の勇姿は強い英語学習のモチベーションになる、生徒は自身の近い将来のゴールを先輩の姿に見ることができる、先輩はすばらしい英語学習者モデルである、ということ。生徒の憧れや夢をあきらめさせず、地道な学習を継続させるきっかけを作る効果的な方法であると思う。
 渓内(たにうち)先生は、2009年全英連東京大会の分科会発表者である。発表内容は、中学校の英語授業において、音読をreproduction(retelling/story-telling)に段階的に発展させていき、教科書で扱われている英語の定着を目指す指導についての実践であった。効果の検証がまだ不十分で、説得力には欠ける部分もあったが、地道に授業改善にチャレンジしている先生の姿に好感をもった。指導手順や方法はシンプルなので、わかりやすい。生徒のこれまでの英語力の伸張をしっかりと検証して次の段階、つまり改良型へと間違いなく進歩していく実践である。発表後渓内先生に評価と定期テストについて質問したかったが、他の質問により時間がなくなり断念した。とても悔やまれる。近いうちに何かの方法でぜひコンタクトを取りたいと思う。
 鈴木先生の提案されている「ラウンド制指導法」については、全英連高知大会の「和訳先渡し授業」の研究に際して、授業研究部のメンバー全員で鈴木先生の指導に関するハンドアウトを読んで、全国には同じようなことを考えている先生がいるんだと強く励まされた記憶がある。今回はその指導方法そのもの紹介ではなく、その指導を基準にして鈴木先生が考案された『英語授業自己診断テスト』の紹介とそれに関連するデータを示していただいた。テストの目的は、授業で自分のしていること(長所・短所)を把握し、自己評価し、授業を改善することであるとのことであった。教員研修で使えるツールの一つになるかもしれないと思った。
 最後は中西先生(平塚市教育委員会指導主事)による小学校における外国語活動の実践報告であった。平成20年度に平塚市は文部科学省の「小学校における外国語活動等国際理解活動推進事業」に取り組んだ1年間の記録であった。先生方が「拠点校だから」というプレッシャーを感じるような研究ではなく、「どの学校でもできる活動つくり」の研究を目指したという点がすばらしいと感じた。英語がわけのわからない呪文のように繰り返される授業ではなく、子どもたちの心が動く、伝えたい、知りたい、聞きたいという気持ちで英語が用いられる場面がある授業つくりを研究し、実践してきたとのこと。さらに、英語ノートの指導書に出てくるクラスルームイングリッシュの例は小学校の先生には予想以上に大変であり、平塚市では、1回の授業では「これだけは使う英語表現」を1つだけ決め、その表現を教員が何度も繰り返し使うようにしたという。百聞は一見にしかず。皆さんもぜひ授業ビデオを見てほしいと思う。1つの英語表現を繰り返しあの手この手で使っている先生と元気で明るい子どもたちに会えます。

(高知県教育委員会事務局高等学校課 指導主事 山田憲昭)

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