6/04/2008

高知の教育とフィンランドの教育

 大崎前教育長から勉強会のご案内をいただいた。浦野東洋一先生を招いての、高知の教育を考えるインフォーマルな討論会へのお誘いだった。大崎前教育長は、たんぽぽ教育研究所を創設されて、新しい活動を始められているとのことだ。

 あらためて高知の教育のことを考えてみようと思ったとき、フィンランドの教育のことが思い起こされた。PISAの結果が発表されてから、『競争やめたら学力世界一』(福田誠治氏著)などの本も多数出版されていて、今、世界で一番注目されている国だ。世界中の教育関係者が「フィンランド詣(もうで)」に行っているという話も聞く。僕自身、テストや学歴競争中心の教育に問題意識を感じて、教職を目指したものだから、フィンランドの教育にはずっと関心をもってきた。

前掲書(p.83)に、「16歳まで、他人と比較するためのテストはない。」とある。「標準(stardard)」という言葉も、学校教育関係者の間では避けられているのだそうだ。一人ひとりの生徒の力を伸ばすことを重視しているから、「標準」という概念は意味がないのだろう。習熟度別のクラス編成も1980年代に全廃している。PISA2003の数学的リタラシーの得点のばらつきをみると、フィンランドの学校間分散は3.9(OECD平均33.6)で、学校内分散は77.3(OECD平均67.0)だそうである。これに対して日本は、学校間分散が62.1で、学校内分散は55.0になっている。つまり、フィンランドは学校間にほとんど差がなく、日本の学校は学校間の差が非常に大きいということだ。そして、フィンランドは、学校内での学力差が非常の大きいことがわかる。言い換えると、様々な能力のこどもが同じ学校で、同じ教室で学んでいるということだ。日本の常識からするとこれはすごいことだ。習熟度別の場合でも、そうでなくても、結局上位の子は学ぶ。しかし、選別をしたクラスの場合、下位の子どもにマイナス面ばかりがあると考えているようだ。フィンランドは、点数競争による選別をやめて、平等にすべてのこどもに質の高い教育の機会をあたえることで、中下位層の底上げに成功していると言えそうだ。

一方、高知県。全国でも有数の「競争」による学校選択が盛んなところだ。中学校進学段階での私学受験志向が強いのだ。中学校入学の段階(13歳)で、テストによる選別が、生徒の学習環境を規定していると言える。昨年発表された、全国学力学習状況テストで、高知県は振るわなかった。あまりにも早い、競争と選別が、低学力層の学びに何らかの影響を与えているのではないか、というのが僕の長年の仮説である。

司馬遼太郎氏は、『この国のかたち1』の中で、「江戸期の土佐藩は多様な人材を擁することで一目おかれたが、いまはただ一種類のモノサシのもので、この県の若者たちは閉塞している。」と述べている。今、高知県では、全国の学力レベルに追い付くための、まさに「血のにじむような」努力が始まっている。がんばってほしい。しかし、同時に、単に点数競争による学力のみでなく、「高知県にしかない教育のビジョン」を描いて、子どもたちの力をのばしていくべきではないかと思う。

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